短編

□2.Une sensation favorite
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今日は、休日です。天気は快晴で、ぽかぽかと陽気な日。僕は莉音ちゃんと、森へ遊びに来ました。待ち合わせ場所で会ってから、転ばないように、という言い訳をして繋いだ手から彼女の温もりが伝わって、僕はドキドキが止まりません。

今は、僕たちが良く来る二人だけの秘密な場所で、のんびりと並んで切り株に座っているところです。








「今日、天気いいね。那月くん、誘ってくれてありがと!」


僕の隣で、太陽に負けないくらいの笑顔を見せてくれた莉音ちゃんに、僕もつられて笑う。すると彼女は空白の五線譜と鉛筆を取り出して立ち上がると、座っていた切り株にそれを置いて、ハミングしながら歩きだした。


♪〜


初めて聴いた旋律だった。唄いながら、しゃがんで花に触れたり、鳥さんに笑いかけたり…そして空を見上げて、LaLaLa...と声を出す。アイドルコースではないから技術こそないものの、そのかわりに真っすぐで、素朴で、透き通った彼女らしい気持ちがすぅっと伝わってくる。

僕は彼女から目を離すことができなかった。


「…ふぅ。なんとなく、できたよ那月くん!」

「とっても素敵でした…僕、この歌を早く歌いたいです」


彼女は僕の言葉を聞くと、安心したように、すとん、と隣に腰を降ろした。そして、五線譜にメロディーが刻みこまれていく。


「莉音ちゃん、いつもこんな風に作曲しているんですかぁ?」

「…うーん、できる時とできない時があるけど…。那月くんと森ってとても合うから…」


そして、俯いたときに流れてしまった髪を耳にかけると、ふわりと笑った。

(貴女の方が、よっぽど似合いますよ)














「わぁ…これ、全て莉音ちゃんが作ったんですかぁ?」

「うん、おいしくできてたらいいんだけど…」


僕の前には、赤いギンガムチェックのバンダナがひかれ、その上にはバスケットが置かれていた。それを開くと、中にはサンドイッチやたこさんウィンナー、卵焼きなど美味しそうなものばかり。僕は両手を合わせて、いただきます、と言ってからサンドイッチを口に入れた。


「…どう、かな?」


莉音ちゃんは不安そうに僕を見上げ、僕からの感想をじっと待っていた。その視線が可愛くて、つい…普段よりもよく噛み、味わってしまう。口の中を空にしてから、僕は一息ついて告げた。


「とっても美味しいです!莉音ちゃんぎゅー!」

「あわわ…那月くん!」


僕は、少しうろたえていた莉音ちゃんの顔や耳が赤く染まったのを見て、心がぽかぽかと暖かくなった。

(いつまででも見ていたくなりますね)




「あ、あの那月くん?私の顔になにかついてる…?」


サンドイッチを少しくわえたまま、彼女はきょとん、と首を傾げた。それと同時に僕の心臓はどくん、と大きく脈打ち、そのまま鼓動が早くなっていく。


「いえ…とっても可愛いらしいなって…」


僕は赤くなった顔を隠すように、手を頬に持っていき俯いて、歯切れの悪い返事をした。それを見た彼女は不思議そうに、僕との距離をつめて僕の顔を下から覗き込む。


「どうしたの、那月くん…。具合悪い…?」

「…心が…壊れてしまいそうに熱いんです」

「…?」


最近、僕だけが莉音ちゃんを想っていることがだんだん辛くなってきていた。僕だけが彼女を目で追って、この手で抱きしめたいと願って、その潤った唇にキスしたくて…。笑顔だけでいいと思ったはずだったが、限界だった。





「莉音ちゃん…。よくきいてください」


僕は意を決してすぅと息を吸い込んだ。そして彼女の手の平を優しく包み込むと、僕はまっすぐ彼女を見つめた。そして手を離して立ち上がると、1番初めに二人で作った曲を歌った。


♪〜


あのときは、全てが初めてで。入学して、席が隣になって仲良くなって…そんな彼女が僕のパートナーになって…。僕はあのときから大好きだった…それに今、僕が莉音ちゃんに感じている気持ちも初めてで。

旋律も歌詞も、全て二人で作り上げた初めての歌。けれど今、莉音ちゃんに対する想いはあの頃とは違った。だから、歌詞を今の気持ちに変えて…心のままに唄った。









「那月…くん、これって…」

「今の僕の気持ちです、貴女を困らせてしまうかもしれない。けれど、伝えたかった…」


僕は莉音ちゃんと目を合わせたまま、隣に腰を降ろした。そして再び手をとった。彼女はどうしていいかわからずに、おろおろとしている。


「恋愛禁止令のこともわかっています…。それでも僕は…」


僕は無意識に彼女の手を強く握っていた。彼女は嫌がるそぶりを見せず、僕はそれに甘えてしまう。


「あの…私は…那月くんが好きです。でもこれが…恋愛感情なのかどうかわからない。」

「わかりました、僕は待ちます。貴女の答えを…」


僕は彼女の小さな手をゆっくりと離すと、今までの雰囲気を払底するようにヴィオラを構えた。そして、気持ちのままに旋律を紡ぎだす。


周りに動物たちが集まってきて、僕の演奏を聴いているのがわかる。しかし、彼女だけは…ずっと楽譜に目を落としたまま、僕を見てはくれなかった。









(ずっと伝えたかったこの気持ち…。それなのに心がざわつくのは何故だろう)





→あとがき
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