短編

□1.Un sourire
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僕は気付いてしまいました、この気持ちに。

僕とパートナー関係にある莉音ちゃん…彼女は、小さくて、可愛くて、そしてとても優しい。彼女の大きな瞳が僕を見上げて笑ってくれたとき、いつも心がぽかぽかするんです。ですが、今はそれだけではありません。僕の心臓は普段よりも強く脈打ち、自分でもコントロールできなくなってしまいます。そして気付いてしまった。この感情は、僕が翔ちゃんを好きな気持ちとは違うんだって…。




学校の時計は、既に18時をさしていた。僕と莉音ちゃんは放課後、先生に雑用を頼まれて作業をこなしていたところだった。今、僕たちは二人で長テーブルを運んでいる。


「莉音ちゃん、重くないですか?」


顔を真っ赤にしながら運ぶ莉音ちゃんに、僕は声をかけた。彼女はもとより、身体が丈夫な方だとはいえないし、どちらかといえば少し危なっかしい。僕は、いつも彼女が怪我をしやしないかと心配していて。


「うん…っ!大丈夫!あ、り…がと」


莉音ちゃんは、無理矢理に笑って僕を安心させようと振る舞った。しかし、それがかえって僕には心配で。僕は、いつも他の人を思いやる彼女に、少しは自分もいたわってほしいと思っている。





階段を昇ったりしながら、長い距離をひたすらに運んだ僕たちは、長テーブルを所定の位置にセッティングすると、ふぅと息を吐いた。僕でさえ、少し辛いと感じたのだから彼女はもっと辛いはず。


「はぁ…はぁ…那月くん、大丈夫?…ちょっと大変だったね」


また、だ。彼女なりの優しさ…それが僕を不安にさせる。はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながらも無理矢理に笑う莉音ちゃん。

(…危ないっ!)


莉音ちゃんがよろけ、倒れる−−−−−と思った寸前で、僕はなんとか彼女を胸に抱き留めた。前はなんとも感じていなかったハグ、それなのに今はこんなにも心臓がうるさい。


「莉音ちゃん!大丈夫ですか?」

「あ、うん…ありがとう!…あの、でも…ハグは…ちょっと恥ずかしいかも」


違った意味で赤くなってしまった顔を、彼女は手で隠してしまう。僕はそんな彼女の手を優しく包んで、その手の甲にそっと口づけた。…これも、心臓を紛らわすための行動にすぎない。


「照れやさんですねぇ、莉音ちゃんは…ふふっ」

「あ、ちょ…那月くんったら…」


僕は普段通り、自分の心情を隠すようににこっと笑う。口ぶりは余裕だが、胸の中は熱いものでいっぱいだった。













「すっかり遅くなってしまいましたねぇ…」


僕は莉音ちゃんと並んで、寮への帰り道をゆっくりと歩いていた。僕が空を見上げると、彼女もつられて星の輝きに魅了される。


「星きれい、だね…。私、那月くんと、この綺麗な空を見られてよかった。…作曲に活かせるから!」


ぱあっと笑みをほころばせた莉音ちゃんが、僕を見上げていた。それは自然な笑顔で。


「莉音ちゃん…可愛いっ!」


ドキッとしたのを悟られぬよう、僕は彼女に強めのハグをした。少しだけじたばたとするのに、本気で抵抗できない莉音ちゃんが愛おしくてたまらなかった。その柔らかそうな唇に、キスができたらどんなに幸せだろうか…


「な、那月くん!」

「あ、ごめんなさい…つい…」

「…やっぱり恥ずかしい、な。でもね、那月くんに抱きしめられると…なんだろう、なんか安心するの」


そう言ってまた笑った彼女につられて、僕も自然に笑みが零れた。
莉音ちゃんは僕にとって大切なパートナー。そして今は、愛する相手でもある。けれど、傷つけたくはないから…今はまだ…彼女の笑顔さえあればいいと思った。











(想いを伝えるまで…待っていてくださいね)


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