短編

□なっちゃんに着ぐるみを着せられたら
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夜遅くに私と那月は、部屋でバラエティー番組を見ていた。とある有名な歌手グループと、ゲストチームがカーリング対決をしたり、ボーリング対決をしたりと身体を動かして、対決する番組。


「莉音ちゃん」

「ん?」

「賭け、しませんか?」

「賭け?」


隣に座っていた那月が、楽しそうにふふっと笑った。私は彼を見て首を傾げる。その頭の上には、クエスチョンマークがたくさん浮かんでいた。

(一体何を考えてるの)


「ゲストチームが勝つか、それともこちらのグループが勝つかで、ですよぉ」

「はぁ?でもお金はやだ」

「わかってますよぉ。勝った人が負けた人の言うことを聞くんです」


すると彼は後ずさりし始めた私に気がついたのか、ガシッと肩に腕をまわした。そしてトドメに頬にキス。それから額をこつん、と合わせて彼は笑った。

(嫌な予感がする)


「いいでしょう?」

「あ、うーん…私はちょっと…」

「きっと…楽しいですよ?」


わざと耳元に近付き、吐息混じりに話す那月。私が嫌がれば、彼はふっと息を耳に吹きかけた。そして、ぺろりと耳を舐めてしまう。


「わ、わかった!やるからやめて」

「わーい、莉音ちゃん大好き!」


結局私は半強制的に賭けをさせられ、私は無邪気に笑う彼の真意が掴めずに、ビクビクとしながらテレビを見る羽目になってしまった。ちなみに、今は歌手グループが僅差で勝っていたため、私は歌手グループが勝つ方に賭ける。すると彼は私の頭をぽん、と撫でてにっこり笑った。















「…え、負けた…?」


まさかのハプニングが起こったせいで、ゲストチームが僅差で追い抜く。私はそんな彼らの様子を見て、ただ呆然と口を開けていた。その隣で、彼はふふっと笑うと席を立って洋服ダンスを漁りだす。


「え、ちょ…わ、私…」

「これ、着てもらいたいんです!ずっと前に買ったもので、ぜひ貴女に…と」


彼が両手に広げたそれは、ぴよちゃんの着ぐるみだった。頭のところがフードになっていて、後ろにチャックがついている柔らかい、どちらかといえばコスプレに近い衣装。彼はにこにこと笑いながら、私に近付き、えいやっと被せる。


「…あー…」


負けてしまった私は、抵抗もできずに彼にされるがまま。服の上から着ぐるみを着せられ、チャックを閉められると、フードになっている頭の部分を被せられる。


「わぁ思った通り!とーっても可愛いです!ぎゅーっ」


那月は案の定私を力強く抱きしめ、頬ずりを始める。私がじたばたと動くことを気にせず、ただ抱きしめる。しばらくして、彼はようやく離れるとポケットから携帯を取出し、何枚も何枚も写真に収めていく。


「莉音ちゃん、顔赤いです!…ああっ!もしかして照れてるの?可愛いなぁ」

「…あー…もう勘弁して…」


再び那月が近付いてきたそのとき、着ぐるみを着て動きづらかった私は、後ずさりをしようとした瞬間に足をもたつかせて倒れてしまいそうになった。そこで、彼は私の身体を抱きしめて………そのまま起こしてくれると思ったのだが。


「…近くで見ると可愛さ倍増ですね、ふふっ」


抱きしめたまま彼は、私をベッドへと押し倒し、跨がる。そして私のフードをとると、彼は髪をさらさらと梳いて、顔全体にキスの雨を降らせる。それから頬を慈しむように撫でた。


「ちょっと、何やっ…」

「ふふっ、でも負けた貴女に拒否権はないんです。…何があっても、ね」


今日1番の笑顔を見せた彼は、眼鏡の奥を鋭く光らせながら、私の唇を噛み付くように奪った。普段の那月よりも刺激的で、時間も長い。


しばらくして唇が離れると、彼は私の隣へと横たわって、ぎゅうと抱き着いてくる。私はそんな彼にいささか驚いた。てっきりそのまま…されてしまうと思ったから。


「ぎゅー…。あれ、どうしたんですかぁ、そんな顔して…もの足りなかったですか?」

「いや、珍しいなって…!」

「期待してたんですか莉音ちゃん、ふふっ。…でも、僕は今日甘えたい気分なんです。ずーっとぎゅーってしたい。僕だけの抱き枕になって…?」


すると、彼は腰にまわした腕に力をこめ、私の胸へと顔を埋めた。私がしょうがないなぁ、と溜息をついて彼の頭を撫でると、彼はとろんとした瞳で嬉しそうに私を見上げた。


「可愛いのは那月だよ…もう、甘えたさんだね」

「…んー?もっと…もっとしてください…。ふわぁ…」

「あれ、那月?寝ちゃったの!?」


私が慌てて彼を見ると、彼は規則正しい寝息をたてて、既に眠りの世界に入ってしまっていた。私はそんな彼に癒されながら、額にキスを一つ。そして私も瞳を閉じた。










(夢でも那月に会えますように)

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