短編

□彼の嘘はミルクティー
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台風が不安で、怖い方へ…贈ります。
まだ、風雨が強い地域があると思いますが、気をつけてくださいね。

2011.09.21 まーや









私はテレビをつけたまま、ぎゅっとぴよちゃんのぬいぐるみを抱きしめた。窓はガタガタと鳴り、風の音が凄まじい。雨も窓に打ち付けて、とても不安だ。座っていた私は、立ち上がって窓から外を眺める。誰も歩いていない商店街が、風に揺れている。

一人暮らしをしている私は、朝から大学の授業があった。しかし休講との情報が携帯に入り、私は家で待機を余儀なくされて。元々一人でいることがあまり好きではない私は、大学に行って友達や…彼氏に会いたかった。



私の手は無意識に携帯に伸びていた。電話帳を開き、"さっちゃん"と登録してある電話番号にかける。


プルルルル…プルルルル…




「あ?何の用だ。これから出かけるんだよ」


すぐに出てくれた砂月は不機嫌そうな声を出した。私は少し胸に痛みを感じながらも、自分の気持ちを押し殺す。しかし、こんな気候なのにどこに行くのだろうか。


「…ううん、なんでもない。忙しいんでしょ…だけど今出掛けるのは危ないよ」

「バイトなんだよ。急に行かなきゃならなくなっちまった。んじゃ、切るぞ」

「気をつけてね…!」

「ああ、お前もな」


電話は無情にも切れ、私は携帯電話を思わずベッドへ投げていた。寂しくて…不安で…砂月の声が聞きたくて電話したのに、彼は相変わらず冷たくて。今からバイトなんて馬鹿げてる、家に帰れなくなればいいのに、なんて少し思う。


その後、私は無性に寂しくなって片っ端から友人に電話をかけた。相手にとっては迷惑な話だろうが、一人暮らしの私は不安で不安で仕方ない。












友人と話してからしばらく経って、私は音楽を聴いていた。何もしないでいるのは辛かった、だからウォークマンを取り出して全曲シャッフルにして。

J-POPから洋楽、クラシックやロック、なんでも聴く私のWALKMANにはいろいろ入っている。これを全部聴いたら、私はもう一度砂月に電話しようと決意した。




多くの曲を聞いて少しだけ飽きてきた私は、次の曲でとりあえず最後にしようと思う。

(次の曲…あれ、これは…!)


流れてきたのはロック。しかしただのロックではない。CD音源のように綺麗な音源ではないけれど、今の私には1番心に響くバンド。そう、大学で砂月がボーカルをしているバンドの曲だった。

(砂月…寂しいよ…)



その刹那、玄関の呼び鈴が何度も押された。ピンポーン、という音が砂月の声を邪魔する。私は少しイライラしながら、またこんなときに誰だと不思議に思いながら玄関を開けた。


「砂月!?」


そこに立っていたのは、ずぶ濡れになった砂月。いつもはふわふわな髪も、濡れて顔に張り付いていた。しかし彼の瞳は強く輝いていて、私はその瞳と目が合った瞬間に目頭が熱くなるのを感じた。そして彼の持っている折れた傘が、また胸を熱くする。彼は何も言わずに、ただ私を見つめていた。


「…っ…風邪引いちゃう…から、早く入って…」


私は砂月を部屋に入れて、タオルを渡す。そして自らも彼の頭や身体を拭きながら、涙を堪えている。

(馬鹿…すっごく嬉しい)


「莉音…お前、寂しかったんだろう…不安だったんだろう?」


突然ぎゅっと抱きしめられて、私は堪えていた涙が溢れるのを感じた。そして、なりふり構わず彼の胸の中で泣きつづける。彼はその間中、ずっと私の頭や背中を撫でてくれた。













私が泣き止んだ後、彼は濡れた服を脱いで半裸の状態でタオルを首にかけていた。そして私の隣に座って、腕を肩にまわす。私はそんな彼の優しさに甘えていた。


「…ねぇ、だけどバイトは?それにどうやってきたの…?電車止まってなかった?」

「お前…来てほしくなかったのか?」

「ち、違うよすっごく嬉しかったよ。それに、水も滴るいい男って感じで」

「ふっ…ばーか。おだてても何もでないぞ?」


私が質問を投げかけると、彼は挑戦的な瞳で私の頬に触れて、笑う。そして私が彼を褒めれば彼はつん、と額に軽くデコピンをして、また楽しそうに笑った。それから彼は複雑な顔をして、そっぽを向きながらぶつぶつと呟く。


「元々…バイトはなかった。お前に電話もらう前から、お前のとこ行くつもりだったんだよ、バイクでな。……ったく、こんなこと言わせんな!」


そして耳を真っ赤にさせた砂月はそれを隠すように、突然私を向いて唇を押し当てた。私は彼の舌に素直に応じ、彼の刺激的なキスに溺れた。しばらくして、彼が離れると私は勢いよく彼に抱き着いた。


「砂月…大好き!」

「おわっ何しやがる」


私は腕を砂月の腰にまわしたまま、彼を見上げた。すると彼は少しだけ頬を染めていて。私はもう一つの質問を投げかける。


「じゃあなんであのときバイトって言ったのー?」

「…っ」

「ねぇ、さっちゃんてばー」


彼の真意なんて、私にはわかっていた。私を驚かせようとしてくれたのだ。それと、照れ…だったんだと思う。私はどんどん赤くなる砂月が可愛くて、追い詰めてしまう。しかし彼は、"さっちゃん"というワードが出た瞬間に厳しい視線を浴びせると、私をソファに押し倒した。そして首筋に噛み付くようなキス。


「黙れ莉音…犯されたいのか」

「あっ…いや、そういうわけじゃ…」

「さっちゃん、て呼ぶなっつったよな」

「ごめ…んっ…あっちょっと!」

「もう遅いんだよ…いいか、この気候の中ずぶ濡れで来てやったんだ。俺を満足させてくれたっていいよなぁ、ああ?」


砂月は楽しそうに笑うと、首筋から鎖骨にかけて舌でちろちろと舐めだした。それから鎖骨に印をつける。そして空いた手で、私の身体を撫でまわし始めた。


「砂月ってば…もう…」

「…莉音、いい声で啼けよ…ほら…」










(…本当はこれ目的だったんじゃないの?砂月さん…)
(ば、馬鹿!んなわけねーだろ)



→あとがき
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