短編

□なっちゃんと中身がいれかわったら
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「おい、那月っ!起きろって言ってんだろ!」


(…ん?)

肩を強引に揺らされて、私は寝ぼけまなこなまま目を開けた。すると、私の目の前至近距離に翔くんの顔。私は寝顔を見られたショックと恥ずかしさで思わず布団で顔を隠す。


「翔くん…近いって…」

「翔…くん?どうしたんだよ那月…朝から気色わりぃなあ」

「?」


翔くんが複雑な表情をして遠ざかった後、私はガバッと布団から起き上がり部屋を見渡した。明らかに自分の部屋ではない。そして、自分の姿を見ると、いつもとは違うぴよちゃんの寝巻きを着ていた。

(あれ?私、昨日ノーブラで寝たっけ)


自分の胸をむぎゅ、と掴んで首を傾げる。いくら貧乳とはいえ、こんなになかっただろうか。身体の違和感を感じつつ、私は布団から起き上がり洗面所で顔を洗おうとして…


「きゃああああああああああ!」

「なんだよ那月!」


遠くから翔くんの声がして、私は絶句した。鏡に映った自分の髪は、普段よりもずっとショート。そしてミルクティー色のふわふわした髪だった。いくら櫛で梳かしても、真っすぐにはならない。顔には眼鏡がかかっていて試しに眼鏡を外すと、視界がぼやけて何も見えなくなってしまった。

慌てて眼鏡をかけて、辺りを見渡せばなるほど、目線の違いに気がついた。

(那月くんの世界ってこんななんだ…背高いなぁ)


「おい、那月何ぼーっと…うわあ!」

「翔くん小さっ!うわっ可愛い」


思わず翔くんの頭をわしゃわしゃ撫でて、にこりと笑うと彼は怒ったような不可思議な表情を浮かべていた。

(あ、そうか。"翔ちゃん"って呼ばなかったから)


私は少しだけ思案すると、思いきって彼に相談してみることにした。那月くんの身体は大きく、いつもより目線が高くて楽しい。だが、わからないことだらけだった。まず着替えに戸惑った。ネクタイが結べない。そして見ないように気をつけながらズボンを履いたりするのは至難の技で。


「お前、そんなんでトイレどうすんだよ…」


翔くんに憐れみの視線を向けられ、私ははぁ、と溜息をついた。流石にトイレには行けない。今日はなんとか我慢せねばならないだろう。














「おはよ…」

「おはようございまーす!ああっもしかして莉音ちゃんですかぁ?」


教室に入ると、私の姿をした生徒がこちらに駆けてきた。そして私を見つめてにこりと笑う。正直いって、とても複雑だった。それにしても、那月くんの身体をした私から見れば、自分がいかに小さいことがわかる。


「あ、もしや那月くん…?」

「はい、そうですよぉ。それにしても、莉音ちゃん可愛いですね!」


スカートをひらひらさせて、くるくると踊りだした自分を、私はなんとか制止する。すると、ニヤリと笑った自分の身体が背伸びをして私の耳に寄る。なんだろう、と私は膝を折って耳を傾けた。


「莉音ちゃんの下着可愛かったです」

「え」


私はそれを聞いてがっくり、と席に座り込む。ずーん、と暗い顔をしていると、事情を知っていたらしい一十木くんと聖川くんが苦笑いを向けた。


「なーんか調子狂うなぁ、那月が妙に大人しくて、君がはしゃぎまわっているとさぁ」

「そうだな。どう接していいのかわかりかねる」

「莉音だと思ってください」

「敬語使うと、更に那月っぽいんだよなぁ」


うーん、でも楽しいからいっか!と一十木くんは他人事のように肩をポン、と叩く。そして、間違えて女子トイレ入るなよー、と忠告をしてくれた。


「だが、男子トイレに入られるのも…その…」

「わかってるよ。なんとかする…って那月くんちょっとやめて!」


周りの視線を気にするどうこうではなかった。自分自身が、自分の胸を揉んだりシャツの中身を覗いたりしていたのだ。それを見ているのはとても気持ち悪い。


「莉音ちゃん、本当可愛い身体してますね!」

「お願いだからやめてって…あっ!」


油断していると、私が着ているブレザーから那月くん自身の携帯を取り出して、その場で自分の姿をパシャパシャと写真におさめだした。周りに広がる不審の目が、痛い。

普通に撮るだけでなく、髪を結ってみたりスカートを上げてみたり、ボタンを第2まで開けてみたりスカートの中に携帯を入れたり…


「ちょ、だめだめ何して!」

「だって、貴女も僕の身体見たわけでしょう?ああっ今夜のお風呂楽しみだなぁ」

「え、そんな」

「今夜はいろいろ試してみるつもりなんです、貴女の身体で…」


どこが弱いのか、貴女の全てを撫でて弄ってみますねぇ、と楽しげに言い放った自分自身を見て、私は溜息をついてしまった。












翌朝、目を覚ますと私は裸のまま布団に寝ていた。自分の身体に戻ったことに安堵しつつ、起き上がったときに感じた腰の痛みに私は愕然とした。唯一の救いは、全てを撮ったであろう携帯が横に転がっていたこと。

「よし、全部消去してやる」









(ふふっ残念でしたぁ…そうなると思ってパスワードかけておいたんです)
(最低ですね)
(動画、今度送りましょうか?)
(いらない!)

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