短編

□君と僕の距離
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「ねぇ、アンタ那月と別れたの?」

「え?なんで?」

「最近絡み少なくない?」


夕方、部屋にいた私は同室である友千香にいきなり質問をされて驚きを隠せなかった。私は作曲していた最中であったが、楽譜に起こす前に全てのフレーズが飛んだ。


「いや、別れてないけど一応は」

「一応、てなに一応って…」


友千香は呆れたように頭を掻くと、私を真っ直ぐに見つめてきた。私は臆することなく目を合わせる。


「何が言いたいの?」

「マズイんじゃないのー?」

「何が」

「 那 月 」


いやいや。と私は軽く手を振った。彼は今私に興味がないみたいだし、私もそんな彼に特に想いを馳せるほど乙女ではない。パートナーである以上、事務的な会話はするし二人で練習もするけど…最近はめっきりスキンシップも減った。キスだって…最後にしたのいつかな。あれ、だんだん寂しくなってきた…?いや、気のせい気のせい。


「はあ…アンタ…」

「もう私、いいの。知らない那月のことなんて」

「莉音はそれでいいわけ?」

「良くない…良くないけど…」

「じゃあ今すぐ那月んとこ行ってきなさい。失ってからじゃ遅いんだからね!」














結局友千香に無理矢理寮から締め出された私は、とりあえず那月の部屋に行ってみるかと思案する。正直気が進まない。彼はそんな人じゃないと思うけど、知らない女の人がいたらどうしようなんて少し不安になる。以前はあんなに信じていたのに…この胸のざわつきはなんだろう。


ピンポーン


私はドキドキしながらドアが開くのを待っていた。無意識に、私は自分の身だしなみを整える。


「おっ莉音か。どうした?那月ならいねぇぞ」

「あ…翔くん…。」


ドアを開けてくれたのは翔くんで那月ではなかった。今日休日なのに…。もしかしたら知らない女の人とデートしているのかも。胸がずーんと重くなったのを感じて、私はふらついてしまう。


「おい!一体どうしたんだよっ」


翔くんが私をぎゅっと支えてくれる。私はいけない、と思いつつも彼の優しさに甘えて、彼の胸の中で涙を流した。






彼は私をそのまま部屋に招き入れると、ハンカチを渡してくれた。そしてソファーに誘い、熱々の紅茶を入れてくれる。翔くんは私が泣き止むまで質問をすることなく、ただ背中を撫でてくれていた。私はそんな彼の優しさにただ、溺れていた。


「那月のことか…?」

「…うん」

「お前に涙流させるなんて…那月のやつ…!」


彼はそう呟くと、拳をソファーに思い切りぶち込んだ。彼は悔しそうにその拳を見つめ、ゆっくり開くと意を決したようにその手で私の頬に触れた。


「なぁ、俺にしないか?」

「えっ?」


私がうろたえると、彼はどんどん私との距離を詰めてきた。そして肩をとん、と押して私をソファに押し倒す。そして切なげに私の髪を梳く。今、私の瞳には翔くんしか映っていない。


「俺は…お前を泣かせた那月を許さない。俺なら…お前を笑顔にできる!だからっ!」


抵抗した私の手首は翔くんに掴まれ、私はなすすべもなかった。強引にキスをしかけようと翔くんが近づく−−−





バンッ


「莉音!」


いきなり玄関のドアが開いて、那月の声が響く。私の名前を呼ぶその声を聞いただけで、心が温かくなって…また涙が頬を伝った。


「那…月ぃ…」

「いくら翔ちゃんでも…こればっかりは許せません。出ていってください」


毅然とした眼差しで那月が翔くんを見つめると彼はそれ以上に強く、それならもっと大切にしろよ!と叫びながら勢いよく部屋を出て行った。

…もしかしたら彼は、那月が帰ってくる時間を見計らって自ら悪役になったのかもしれない。そんな考えが私の頭を過ぎった。




「莉音…大丈夫でしたか?何もされませんでしたか?」


彼は手に持っていたスーパーの袋をその辺に無造作に置くと、私の元へやってきてぎゅっと抱き起こしてくれた。久しぶりの抱擁だった。それだけでももう、心がポカポカしてどうしようもなく涙が溢れる。


「ごめん…ごめんね。泣かないで…」

「最近那月が…那月がぁ…ぐすっ」


私は言いたいことの半分も言えず、ただひたすら泣きじゃくっていた。彼はそんな私の頭を撫で、頬に伝った涙をぺろりと舐めた。


「莉音の感触…久しぶりです…」

「なんで、なんで最近冷たかったの…」


私が問えば、彼は驚いた顔をして尚一層私を強く抱きしめた。そして耳元で呟く。


「僕はてっきり…貴女に嫌われたのかと…。スキンシップを嫌がるのは照れからではなく、本当に嫌だったのではないか。そう思うようになってから僕は貴女を想って我慢してきたんです」

「え…?」

「毎日の練習で貴女の笑顔を見る度に何度、この胸に抱きしめたいと思ったことか。しかし今、翔ちゃんと貴女の様子を見て歯止めが効かなくなりました」


ちゅっと耳元にキスをされ、私はぴくっと反応をしてしまう。彼はその様子を見て、ふふっと笑った。そして頬に額に、と次々にキスを降らせる。しかし彼は1番欲しいところにキスをくれなかった。私は無言で彼を見上げた。


「その様子だと、僕の勘違いだったんですねぇ」


頬を緩ませた彼は、私の手の甲にもキスをする。

(違う…そこじゃなくて…)


「ん?莉音…その物足りなげな瞳は…なんでしょうねぇ」


彼は悪戯っぽく笑って、私を優しくソファーに押し倒す。そして、何の許可もなく私の服のボタンを一つ一つ外していく。もう片方の手は無防備な脚へと向けられた。


「那月!?なにやっ…」

「何って…わからないんですかぁ?ふふっ…じゃあ教えてあげます」


いきなり衿元をぐいっと開けられ、彼は剥き出しの鎖骨をぺろっと舐めた。そして私の反応を楽しむように、首筋から唇へと焦らすように上がっていった。そして唇へ到達すると、刺激的なキスをする。


「んんっ…」


唇を離せば、彼は楽しそうに笑って頬ずりをする。その最中も、私の胸は彼によって翻弄されている。あまりにも久しぶりすぎる行為に、私の身体は敏感に反応をしてしまう。彼にはそれが楽しいようで、焦らしながら私の弱点を探っていく。


「んあっ…」

「あれぇ、ここも弱いんですか。新しい発見ですねぇ、ちゅっ」

「やああっ那月ぃ…」

「ああっその表情…反則です!僕、もう我慢できませんからねぇ?…覚悟してください」














(…というわけなんだよ、音也…俺を今夜泊めてくれ頼む…)
(あはは…大変だね翔…)





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