短編

□Liebesträume
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昼時から、僕のパートナーであり愛しくてとても可愛らしい恋人莉音が僕の部屋で課題を進めていました。しかし帰る時間になった頃、運が悪く大雨に降られてしまいました。

(僕にとっては幸運ですが…)

それもただの大雨ではなく、台風だったので風も強かった。だから僕が彼女を送るわけにもいかなかったんですねぇ。

そして今、彼女は僕の部屋でシャワーを浴びています。僕の心中では天使さんと悪魔さんが戦いを繰り広げていて…。天使さんは彼女を想うなら覗きはよくない、悪魔さん…いえ、厳密に言えばさっちゃんは、彼女なんだからいいだろう?と言う。ああ、どうしましょう。


那月は葛藤に耐えながら窓際に近寄る。閉めてあったカーテンをちらりとめくり、外の様子を確認する。

(この様子じゃあ…バイトに行った翔ちゃんも帰ってこれませんねぇ)


その刹那、大きな光の筋が地面に刺さり大きな轟きが地面を揺るがした。そして少し経ってからドーンバリバリという大きな音がして、部屋中の電気が消える。

それと同時に、彼女の叫び声が響く。


「きゃあああああああああ!」

「莉音!今行きます待っててください」


僕は急いでお風呂場に向かいます。しかし、元々視力が良いわけではありませんから…いろんなところにぶつかってしまいました。

なんとか風呂場の前に到達して、僕はなんの躊躇もなくドアを開けてしまいました。すると、前を隠した莉音が座ったまま奮え、僕を見上げていたんです。

(どうしましょう…ものすごく可愛いっ!)


僕はバスタオルで身体を包みながら、彼女をぎゅっと抱きしめてあげました。一応言っておきますが、僕に他意はありませんよぉ。


「うぅ那月くん…怖いです…」


いつもなら照れる彼女ですが、今日ばっかりは違うようです。本当に怖いのでしょう。僕にしがみついて、まだふるふると震えています。


「僕がいますから、安心してください」

「うぅ…」


ドーン!


「きゃあああああああっ」


二度目の大きな雷鳴がきました。その瞬間に彼女は僕にしがみついて、胸の中で必死に涙を堪えているように見えました。うさぎさんやハムスターさんみたいです。本当は今すぐ彼女を安心させたいのですが、どうも僕は彼女が可愛くて愛しくてしょうがないみたいです。ずっとこのままにしておきたいと思ってしまいました。彼女の困った、怯えた姿も可愛いですねぇ。なかなかそそります。



しかしそういうわけにもいかず、僕は彼女にとりあえずバスローブを着てもらってなんとかリビングのソファまで連れてきました。彼女はまだ震えています。どうしたらいいでしょう。


「莉音…まだ怖いですか?」

「はい少し…ドキドキが止まらなくて…」


俯いて震えている彼女の言葉に、僕は少し嫉妬…というものを感じました。僕以外のことで貴女がドキドキするなんて、聞き捨てなりません。僕はこんなにも貴女にドキドキしているのに…。


「莉音…」


そっと名前を呼んだ僕は彼女の手を両手で包んで、軽くキスをしてあげました。照れ屋さんな莉音ですから、暗くて良く見えなくても頬を染めていることくらいすぐにわかります。そしてそのまま彼女の手を僕の胸に触れさせてあげます。


「僕もドキドキしているんです。ほら、ね」

「本当…ですね」


顔を背けながら、僕の胸の鼓動を感じてくれた彼女が愛おしくてたまりません。彼女はそのまま、那月くんも雷が苦手なんですか、と尋ねてくれました。


「違いますよ。これは…貴女が傍にいるから…貴女へのドキドキなんです」

「…!」

「僕は…ここに貴女がいてくれるだけで、こんなにも胸が高鳴るんです。貴女は…莉音のドキドキは…雷…だけですか?」


そう言って僕が頬にキスをすると、莉音はふるふると首を振ってくれました。照れ屋さんな彼女の精一杯の行動に、僕は思わず頬が緩んでしまいました。
そして彼女をぎゅっと抱きしめます。もう我慢できませんでした。こんなに繊細で可愛らしくて…僕が守ってあげなくちゃ、そんな気持ちになります。


「莉音は…僕を強くしてくれるんですね」


ふと出た言葉に、彼女はハテナマークを浮かべた顔で僕を見上げてくれました。こんなに近ければ、暗くてもよく見えるものですね。僕は目が合った彼女の瞳に吸い込まれ、彼女の頬を両手で包みました。


「莉音…キスしても…いいですか?」

「あ、あのあのあの…」


思った通りの彼女の反応に、僕は愛しさを覚えます。そして額にだけキスをしました。


「僕…これだけじゃ足りない。足りないです莉音」

「は…はい…」


すると彼女はぎゅっと目をつむり、僕に無防備な顔を見せてくれました。こんな姿が見られるのは僕だけ、そう思うとキスを躊躇してしまう程に可愛くて、そして綺麗でした。長い睫毛、整った鼻、ぷるぷると潤った果実のような唇…そのどれもが愛おしくて…


「那…月くん?」


気が付くと、彼女の大きく輝く瞳が開いていました。待ちきれなくて瞳を開けてしまったんですね。

(ああ…本当に愛おしい。僕のミューズ…)


キスを待ち侘びた彼女の顔を見て、僕は衝動的に果実のような唇に吸い寄せられました。もう、一時も離れたくなかった。いや、放したくなかった。

(こんなにも、僕の胸を焦がしたのは莉音が初めてです)











(那月くん…ありがとう)
(今日はずっとここにいてくださいね、離れたくありません)





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