短編
□con fuoco
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「ここが私たちの部屋?」
「そうみたいですねぇ」
私と那月は、初めて泊まりがけの旅行にきていた。今は観光を終え、荷物を持って旅館にチェックイン、そして私たちにあてがわれた部屋へ入ったところだ。
部屋はとても広かったが、落ち着いて過ごせるような造り。和室のテーブルの上にはお茶菓子がのり、近くに茶碗が用意されている。
自分の荷物と私の荷物を持ってくれていた那月はそれらを置くと、ふふっと笑って洋服だんすを開けた。そして浴衣を手にとり、嬉しそうに私の元へやってくる。
「せっかくですから浴衣着ましょうよ莉音!」
「そうだね」
私は那月から浴衣をもらい、いそいそと上着を脱いだ。しかし那月がその様子をじっと見るので私は恥ずかしくなって、手を止める。
「あれぇ?どうしましたぁ?」
「だって…見ないでよ…」
小声で呟いた私に、那月は首を傾げる。そして、何かを思いついたように驚いた顔をすると、ああ!と言って私ににじり寄ってきた。楽しそうに笑う那月の考えが読めず、悪寒が走る。
「浴衣の着方が分からないんでしょう?僕が、教えてあげる」
「あっ…」
後ろから抱きしめられつつ、耳元で囁かれた私に抵抗する元気もなく私はされるがまま。彼は器用に片手で、私のブラウスのボタンを一つ一つ外していく。外しながら私の身体に触れる那月の手が、計算されているかのようにじれったい。
もう片方の手はスカートの中で私の太股を撫で上げ、内股から尻にかけて、隅から隅まで念入りに触れている。
「はぁっ…那月…やぁん」
「莉音、可愛い声…もっと聞きたいなぁ…もっともっと…」
私が存分に那月に触れられた後、那月は浴衣を着せてくれた。しかし私はせっかく着せてくれた浴衣をまた脱ぐことになった。彼が、温泉に入ろうと口にしたからだ。
この旅館には、各部屋に小さいながら露天風呂がついている。洗い場も勿論あり、大浴場が嫌な人でも温泉を楽しめる。つまりは貸し切り、ということだ。
私はバスタオルをしっかり巻き付けて、風呂へのドアを開けた。すると、温泉につかっている那月が笑って手を振る。濡れてふわふわでなくなった那月の髪の上には、ちょこんと白いタオルが乗っている。
(…なんか別人みたい)
「あれ、きゃあああ!」
ばっしゃーん
「莉音!?大丈夫ですか!」
「な…なんとか…」
那月に見とれていた私は、滑ってそのまま温泉へとダイブしてしまった。那月が間一髪のところで抱き留めてくれなかったら、頭を打っていただろう。
「驚きましたよぉ…もう、危なっかしいですねぇ莉音」
そのままぎゅっと抱きしめられて、額と頬にキスの雨が降る。少し熱を帯びた私が彼を見上げれば、彼はふふっと笑って唇に情熱的なキス。彼の頭に乗っていたタオルが落ちていく。
「…んっ」
「はぁっ…ん」
熱いキスをされながら、緩くなっていたバスタオルがするり、と外されるのを感じた。背中を彼の指先が這う。それだけなのに、今までにないシチュエーションのせいか過敏に反応してしまう私の身体。
二人の間を邪魔する物が布一枚すらなく抱きしめられていると、彼の引き締まった男の人らしい身体を直に感じる。
一度唇が離れ、彼は愛していますと呟くともう一度情熱的なキスを施す。彼の舌が私の唇を割って入り、私の胸を焦がしていく。
「んっ…はぁ…もうっ無理…」
「莉音…」
「きゃあ!」
彼は突然私の弱点に触れると、ここは夜のお楽しみにとっておきましょう、と微笑んだ。そして頭を撫でられる。
「那月…もう…のぼせそう」
「僕にですかぁ?」
「温泉にです!」
本当は温泉よりも那月にのぼせていた、なんて私に言う勇気はなかった。
今、私たちは夕食を堪能して部屋へ戻ってきたばかりだった。二つ並んだ布団の上で、私たちはなんとなくつけているテレビを見ている。那月は私の隣に座って、私の肩を抱いている。そして時折、頬にキスをする。
「ふふっ…いい香りがする…」
那月は私の髪に顔を近付け、軽くキスをする。私が身じろぎをすれば、両腕でぎゅっと抱きしめられた。そして耳元で吐息混じりに囁く。
「逃げちゃだめですよぉ…貴女は僕の天使…」
「大袈裟だよ」
「そんなことありませんよぉ…大好き…いえ、愛しています莉音」
「ありがとう…私も…」
「私も……何ですかぁ?」
続きを促されて、私は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で想いを伝える。すると那月はふふっと笑ってテレビと電気をおもむろに消し、私の肩をとん、と押して布団に倒す。
「もう我慢できません。愛情を身体で表現しても、いいですよねぇ?」
「…」
「崩れた浴衣から見えるその脚、首元、また貴女の瞳が…僕の理性を犯していくんです」
私の身体を下から上まで切なげに見つめると、私の頬を両手で包んで懇願する。普段は余裕な表情を見せる那月だが、今日は違った。真剣な瞳が私を射抜く。
「…那月。優しく…して?」
「気持ち良く…してあげる」
私が許可を出せば、彼は浴衣の襟元を広げて、首元から鎖骨にかけていやらしく舐めながらキスをしていく。
「…あっ…んんっ」
「我慢しないで…声出していいですから。それとも…足りないですかぁ?」
「ひゃあっ…あぁん…」
強めのキスをされて、私は目をつむりながら声をあげてしまう。
「莉音可愛い…いろんな顔…もっと見せて?貴女の全てを見たい」
すると彼は浴衣の裾をまくりつつ、踝から太股へかけてゆっくり焦らすように指先を這わす。私が声を漏らせば、そこだけを執拗に攻め、しるしをつけた。内股まで上がってくると彼は私の額にキスをして、下着の上から弱点をなぞる。
「やあっ!…はぁ…那月そこは…!」
「直接触れてほしい…ですかぁ?まだだめですよぉ…もうちょっと貴女を味わいたい」
弱点ばかりをなぞりながら、彼は浴衣の帯をするすると外し、浴衣を私から剥ぎ取る。そして下着姿になった私を見つめると、ブラジャーの肩紐をするりと外し、カップの位置をずらす。
私は恥ずかしくなって思わず両手で胸を隠す。すると、彼は微笑みながらやんわりと両手のガードを外す。
「まだ慣れませんかぁ?可愛いですねぇ、本当に」
「そんな、慣れないよ!…きゃぁん」
彼の指先が頂点に触れそうになりながら、ギリギリのところを撫でる。そしてやわやわと揉む。しばらくすると、彼は今までに触れられていないピンと立った頂点にキスをし、口に含む。
「んっ…はぁっ…莉音、もっと僕を感じて…」
「那月ぃ…」
「もう…降参ですかぁ」
「…」
私はこくり、と呟く。
「おねだり…してくれないと何をしてほしいか分かりませんよ?」
「はぁっ…はぁっ…那月の意地悪…!」
「ほら、何をされたいんですかぁ?」
私は真っ赤になりながら、彼の耳元で言いたいことを伝える。すると、彼は満足そうに笑った。
「了解です、僕だけのお姫様」
(昨日の那月…全然優しくなかった)
(浴衣効果ですかねぇ、僕の理性がちょっと…暴走しちゃいましたぁ)
(笑って言わないで怖い)
→あとがき