短編
□1.スキンシップじゃなくて
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「あ!莉音ちゃんだぁ!」
学園内の廊下を歩いていた私は、遠くの方でにこやかに手を振るとある人物をとらえ、身体が強張った。
ミルクティー色のふわふわした髪に、眼鏡が印象的な…
(やっぱりこっちきた…!)
私は手を振る彼に気がつかなかった振りをして、慌てて足を動かす。彼に捕まったらとんでもないことになる。恋愛禁止令がどうとかいうレベルじゃない。
「莉音ちゃ〜ん!待ってくださいよぉ」
段々と声が近付き、ドドドドドという足音が近付いてきた。しかし私は、後ろを振り向くことなく駆け出す。
(捕まってたまるか!)
「つかまえたぁ」
走り出した直後、後ろから包まれるように抱き着かれてしまった。両手でぎゅうと抱きしめられれば、逃げようとしたって逃げられない。それに彼は身長が高い。
「那月…やめて、て言ってるでしょ」
「柔らかいなぁ莉音ちゃん…可愛いっ!」
抱きしめる力が弱まった…と思えば、那月の両手は私の身体を探るように撫でる。私が身をよじれば、彼は耳たぶにキスを施す。
「…あっ…」
「ふふっ…赤くなってますよぉ」
「ああもう!離して!」
「照れ屋さんですねぇ、莉音ちゃん」
那月はそう言うと抱きしめていた両手を離し、私の頭をぽんぽん、と撫でた。そしてその手が、私の頬を撫でる。
「ただのスキンシップですよぉ?」
「よく言う。セクハラと呼ばせていただきたい」
「セクハラ…?」
那月はきょとん、と首を傾げると、心がぽかぽかするような優しい笑みを浮かべた。そしてまた私の肩を抱き寄せ、自分の胸へと誘う。
「セクハラじゃないですよぉ。だって、莉音ちゃん喜んでるじゃないですかぁ」
「喜んでない!」
「じゃあなんでそんなに顔赤いんですかぁ?」
「あ、あのそれは!」
「ドキドキ…してるんでしょう?僕に」
ふっと、耳元で甘く囁く彼。私の身体は思わずぴくりと動く。その様子を見て、彼はますます微笑んだ。
(うわ…喜んでる…)
「ち、違うから!次、体育だから急いでるの離して!」
私は慌てて彼の胸元から逃げだし、顔を隠すようにして走り出した。すると後ろから那月の声が響いてきた。
(僕がお着替え手伝ってあげますよ)
(いらないわこの変態!)