短編

□恋杯*続
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「うわぁ人多いですねぇ…」

「本当だね」


僕と莉音は、ショッピングに出向いていた。相変わらず今日もたくさんの人が行き来をする。僕は彼女と離れないようにそっと手に指を絡ませた。


「あ、那…月」

「嫌ですかぁ?恋人つなぎ」


指を絡ませたそのとき、彼女はぴくりと反応をし、耳まで真っ赤に染まっていた。決して自分から強く握ろうとしない莉音だったが、僕がぎゅっと握れば遠慮がちに軽く握る。

(相変わらず照れ屋ですねぇ)


「あ、あのね那月…実はこの店に…」


彼女は僕に答えず、とある洋服店に入っていく。そして一つの洋服をじっと見つめ、少しだけ頬を染めると、身体に当てた。それから控えめに僕を見上げ、どうかな?と言いたげに首を傾げる。

(白いワンピース…)


「莉音可愛いっ!」


僕は思わず彼女をぎゅっと抱きしめて、頬ずりをしてしまっていた。彼女はじたばたと抵抗して…


「ちょっと!外だからやめて!」


僕が放してやれば頬を大きく膨らませ、もうっ、と怒る莉音。しかしその表情は僕にとっては可愛い以外の何物でもなくて、怒られているはずなのに嬉しくてたまらない。


「試着、してみましょうよ莉音。僕がお着替え手伝ってあげますから」

「な、何言ってんの!馬鹿!」


(半分冗談なんですけどねぇ)

僕は更に赤くなり慌てた莉音を見て、頬が緩む。本当にからかいがいのある女の子。ずっと見ていたって飽きることはない…




試着室まで送って、彼女に絶対見ちゃ駄目だからね!なんて釘を刺され、僕は彼女が着替えるのを待っていた。

近くで待っていると、彼女の着替えている音が耳に入ってくる。ホックを外す音、洋服がぱさっと下に落ちる音…

この布の向こうで彼女の生着替えが行われていると思うと、気が気ではない。


「着替えた…よ?」


ふいに布が開いて、白いワンピースに包まれた彼女を見て僕は思わず抱きしめつつ、布を閉めた。


「ちょっ…どういうつもり…んっ」


彼女の抵抗を無視し、試着室の中で熱いキスを施す。


「ごめん…どうしても我慢できなかった」


二人を繋ぐ銀の糸がぷつりと切れ、それが僕には名残惜しくて頬に軽くキスを。


「あっ…もう那月ったら…」

「ふふっ…可愛くってキスしないと勿体なかったんです」

「あの…那月はこういう格好…好き?」


そっぽを向いてなんでもないように問う彼女に、愛情が溢れ出しそうになる。
僕は再び莉音を腕の中に納めると、にこりと笑って答えた。


「僕は莉音が好きなんです」

「…そうじゃなくて」

「莉音が着ていればなんだっていいんですよぉ!それが答えです」

「!」












「うわぁ可愛い!」

「食べられるかな…」


僕と莉音はさっきの店でワンピースを買った後、少しぶらぶらと歩き、とあるカフェに入った。

テーブルの上には、巨大なパフェが一つ。たった今運ばれてきたパフェは層が何段にも分かれ、綺麗なグラデーションになっている。上にはさくらんぼや苺など可愛らしくフルーツが盛りつけてある。


「莉音、あ〜んしてください」

「えっ!」


僕は口を大きく開けた。こうすれば彼女は絶対僕の言うとおり。


「んー!あ〜ん…」

(ほらやっぱり)

僕はそれをゆっくり堪能した後、赤くなっている彼女にご褒美をあげることにした。


「はい、あ〜ん」

「えっちょっ…」

「あ〜ん!」

「やめ…むぐっ」


無理矢理に詰め込んでしまったため、口に少しだけクリームが残っていた。僕はそれを見て、彼女の隣へと席を移動し、頬を両手で包んだ。そして、ぺろっと口元のクリームを舐める。


「ごちそうさまっ」














そして今僕は羞恥心でいっぱいの莉音を眺めていた。


「僕はこれが好みです」

「なかなかいいの選びますね、彼氏さん!これもいいんですよ」


当の本人は僕と店員さんが持つ下着を見ては、首を横にぶんぶんと振った。

なんとなく入った下着店で、僕は莉音の下着選びを手伝っていた。僕と店員さんは意気投合をして、次々と彼女に見せたが、彼女は恥ずかしがるばかり。


「そんな布の面積少ないやつ…」

「いいじゃないですかぁ、どうせ全部僕が脱が…」

「馬鹿!」


店員さんは僕らの様子を見て微笑み、脱がせやすいタイプならこれがいいんですよ、なんて冗談で言う。彼女はそれにもいちいち反応するから、とても可愛い。

(あっそうだ…)

僕は、とある下着を見て頬が緩んだ。これなら彼女は、きっと僕が選んだセクシーな下着を納得してくれるはず。



「ぴよちゃんだぁ!これにしましょうよ莉音!可愛いなぁぴよちゃん」

「だったらこっちのにするもん!……あっ!」


(可愛いなぁ莉音)













ガタンゴトン…


帰りの電車の中も、人ごみで溢れていた。僕と莉音は、なんとか隅へと逃げる。そして僕は莉音を庇うように、抱きしめる。

彼女は歩き疲れたのか、頼りなげにふらふらとし、言葉も少なく、瞼も閉じそう。


「莉音…大丈夫ですかぁ?」


声をかけると、彼女はこくんと軽く頷いたくせに、僕の胸へ頭を寄せ、全てを僕に委ねた。そして瞳を閉じる。

僕はまるで"那月がいるから大丈夫"と言われたように感じて、胸が熱くなった。


(たまに甘えられると調子狂いますねぇ)


彼女がふらつかないようにしっかり抱きしめつつ、僕は莉音の髪にキスをした。いつもなら恥ずかしがって逃げてしまうのに、彼女は僕を抱きまくらのように更に強く抱きしめた。

(寝ぼけてる…?)


莉音の体温が、滑らかな肌が、柔らかい身体が、直に伝わって少しだけ緊張するのと同時に僕は安心した。


「今日は…ありがと那月…」


彼女はぼそっと口に出すと、顔を見られないように僕の胸にぎゅうと抱き着いてくる。僕はそんな莉音の頭を撫で続ける。


「僕の方こそ…いつも傍にいてくれてありがとう」










(あ、あれっ!?駅通りすぎた!?)
(あんまりにも可愛かったので終点まで来ちゃいましたぁ)
(はぁ…馬鹿…)

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