短編
□恋杯
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莉音…莉音…
那月の声がする−−−
(夢…夢でも那月に会えるなんて…)
「莉音!」
「…っ?」
気付けば唇に暖かい感触がして、身体はぎゅうと毛布の上から抱きしめられている。この感触はわかる。懐かしすぎる−−−
唇が離れ、目と目が合った瞬間に、私は熱いものが込み上げるのを感じた。
(…泣かない、絶対泣かな…)
「な…つきぃ…ぐすっうっ…」
私の目から雫が一筋流れる。彼はそれを見て、更にきつく抱きしめてただひたすらに謝る。
「ごめん…本当にごめんね」
那月は普段弱みを見せない彼女の涙にひどく驚いていた。そしてまた、普段強がっている彼女の心の内に隠されたものを理解し、彼女への愛情が増幅する。
「寂し…かった…よぉ…うっ」
「莉音、今は僕がいますから、ね。大好きです莉音」
莉音が泣き止むまでずっと抱きしめていた那月は、ここでふと疑問を感じた。
(なんで僕の部屋に莉音が?)
那月は泣き止んで、もうちっとも甘えなくなってしまった彼女に質問を投げかける。
「え?それは…まあいろいろとね…」
毛布を被ったままで目をキョロキョロとさせる莉音。那月はその様子を見て確信した。そしてあまりの可愛さに、頬に軽くキスを贈る。
(素直じゃないですねぇ、もう)
「僕の温もり、感じられましたかぁ?」
「ば、馬鹿!そんなんじゃ…!あ、それよりもテーブルの上の…」
慌てて話題を逸らした彼女に、那月は頬を緩ませながらも視線をテーブルへと移す。そこにはぴよちゃんグッズが並んでいた。
「莉音に夢中で気がつきませんでしたぁ。ありがとう!」
那月は立ち上がってテーブルに近寄り、少しだけぴよちゃんの頭を撫でた後、また布団に戻って縁に座った。そして彼女の髪に自らの手を通し、軽くキスをする。
「莉音…貴女に逢いたくなって早くこちらへ帰ってきたんですよ」
大真面目に話す那月に、莉音の心臓は大きな音を立てる。
「寂しくて…どうにもならなくなったんです。毎日隣に貴女がいるのが当たり前だったから…」
「那月…」
切なげに遠くを見つめる那月を、思わず莉音は起き上がってぎゅうと抱きしめた。自分から滅多に抱擁をすることはない彼女だが、自分も同じ気持ちだったのだ、と示したのだ。
「莉音…?」
「わ、私もずっと…」
"寂しかったの"
耳をすましても聞こえないくらいの小さな呟きだった。しかし那月の心には強く響く。
「莉音…それ、新しい下着ですかぁ?」
少しの沈黙を破ったのは那月だった。体温を感じていた莉音は、はっとして那月の腕から逃れて両手で隠す。
「見ないで…恥ずかしいから!」
「しっかり準備してたんですね!莉音?」
「ち、違うって何言って…」
せっかくの下着が台なしですよぉ?なんて言いながら、彼女の両手ガードを丁寧に解く那月は、下半身に違和感を感じた。
「莉音…そんな姿で誘惑されたら…」
吐息混じりに那月が呟けば、彼女は真っ赤になって変態!と叫ぶ。そしてじたばたと暴れる彼女を自分の胸へ閉じ込め、頭にキス。
「もう限界です。大好きなんですよぉ、莉音が」
「…っ」
「あれ…莉音は僕のこと嫌いですかぁ?」
「ち、ちが…」
「じゃあ、言葉に出して?」
「…んー!す…きだよ那月!」
うん、と楽しげに頷いた那月は彼女を優しく押し倒して、愛し続けた。
(今度…二人で出掛けたいところがあるの…)
(はい?なんて言いましたぁ?)
(やだ!もう!恥ずかしいから言いたくない!)
(ばっちり聞こえてましたよぉ…本当素直じゃないですねぇ)
→あとがき