短編
□お湯とぬるま湯
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「莉音ちゃーん!」
「うるさい黙ってくれるかな」
「つれないですよぉ…せっかく僕と二人きりなのに…」
「…」
「莉音ちゃん何やってるんですかぁ?」
「今いいとこなの。話しかけないで」
莉音と那月は今、那月の部屋で久しぶりの休日をのんびりと過ごしていたところだった。窓は開いたままで、柔らかい陽の光と心地好い風がさらりと入ってくる。風は莉音と那月の髪を優しく揺らす。
先程から莉音は那月の部屋のソファーに寝転がり、我が物顔で携帯ゲーム機をプレイしていた。見たところ、RPGのようだ。
一応彼氏である那月は、莉音に構ってもらうべく様々な方法でちょっかいを出すが、彼女は全く見向きもしない。
ふにっ
「ひゃあ!…那月っ!」
「柔らかいんですねぇ、莉音は」
「ちょ…どこ触ってんの!」
途端に頬を染めて身じろぎする莉音に、那月はふふっと笑って彼女の顔から手を離した。
「耳たぶですよぉ」
「…もう、なんでまた…」
はぁ、とため息をついた彼女は手にしたゲーム機をテーブルに置いて、ソファーから立ち上がった。
「あれ?知らないんですかぁ?」
きょとん、と不思議そうに彼女を見遣る那月は莉音の様子を見て、黒い笑みを湛えた。ニヤリ、という効果音が聞こえるかのように。
「…なにその顔は」
莉音は立ち上がったまま那月から後ずさる。那月は彼女を追いかける。その短い間に黒い微笑みは増幅していく。
「耳たぶが柔らかい人は、エロいらしいんですよ」
「…ふーんっ!私はそんなことないけどね」
「そうですかねぇ」
珍しく食い下がる彼に少しだけ違和感を覚えながら、莉音はそうだと何度も頷いた。しかし那月は答えこそ食い下がったものの、あの不快な笑みは健在だった。
ふにっ
今度は莉音の反撃。近づいてきた那月の耳たぶを、彼女は容赦なく摘む。
「あ。那月だって柔らかいじゃん」
「僕だって男ですからねぇ」
「!?」
「そんなに莉音ちゃんが否定するなら…試してみましょうよ」
そしてなんとなしに彼は眼鏡を外してしまう。莉音は夢中で眼鏡をとろうと手を伸ばしたが、空を掴んだだけだった。眼鏡は彼によってソファーの柔らかいクッションの上に投げられてしまった。
「おい、莉音」
「…っ」
「こっち見ろよ」
思わず怖くなって下を向いてしまった彼女の顎を掬って、見上げさせたのは砂月だった。彼は空いた片方の手を腰に回すと、顔を彼女に近付けた。
「何恥ずかしがってんだよ」
「耳元でしゃべらないで…!」
彼の吐息が耳にかかる度、莉音は頬を真っ赤に染め、身体をぴくりと反応させた。
「しかしお前、痩せたか?この前抱いたときより腰が細いぞ」
「…あぁだからっ!やめ…っ」
腰に回していた手が腰周りを探った後に、一時的に離れる。それと同時に顎にあてがわれていた手も離れ、彼は莉音の身体をまじまじと眺めた。
ほっとした莉音とは裏腹に、彼は莉音のとある一点を見つめ、眉間に皺を寄せる。
「なに?文句でもあるの」
莉音は遠くに投げられた眼鏡をどう取り返そうか思案し、少し苛立っていた。
「お前、胸まで小さく…」
「最低っ…!」
思わず砂月に向かってグーにした手が伸びる−−−が、案の定伸ばされた手は軽やかにかわされ、手首を掴まれてしまう。彼はニヤリと挑発的に笑っていた。
「気にしてんのか?」
「あったりまえでしょ!そりゃあ…大きい方が…那月だって嬉しいだろうし…」
少しずつ声が萎んでいく莉音の肩に、砂月は腕を回した。
「俺が協力してやる」
「どうやって…?」
「揉んでやるよお前のために」
「きゃあっ!」
砂月はそのままぐい、と莉音を引っ張りソファーの上に倒した。そして無理矢理に服に手をかける。
莉音はそれを片手で阻止しつつ、もう片手は投げられた眼鏡を必死で捜索していた。
(お願い…全て脱がされる前に…!)
ボタンが次々に外され、残るはあと一つだった。彼が下着についてどうこう言っているのが聞こえたが、そんなもの気にしている暇はない。
「花柄か。しかしまあ着痩せするもんだ意外とあるよな…」
(あった!)
莉音は必死の思いで眼鏡をかける。
「那…月っ!」
「あれぇ?莉音ちゃん?」
彼は一度手を止めた。そしてこの様子に一瞬驚いていたが、ふふっと笑った。その微笑みを見て莉音は絶望する。那月だろうが砂月だろうが、されることについて変わりがないことに気付いたのだ。
「やっぱりエロいじゃないですかぁ」
「ち、違うのこれは…!やめなさい!ちょ…」
「せっかくのチャンスは無駄にはしませんよぉ」
「やめてええええええ!」
(ほら、僕の言った通りでしょう?)
(ち、ちが…!)
(あれぇ?まだ試したりないですか?)
(もう勘弁して…)
→あとがき