短編

□accarezzevole
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休日の朝から私は不機嫌の塊だった。


「…っ…那月…。それ以上寄ったら許さない」

「許してください莉音」

「いや」

「どうしてです?」


私たちは一つのベッドの中で、微妙な距離を保っていた…というより保たせていた。私は意図していない格好、つまりは全裸で毛布に包まっていた。

どうしたもこうしたもない。私は油断していた。この男はただの天然だと誤解していたのだ。部屋に連れ込まれたのは、パートナーだからであってそれ以上の目的があるだなんて微塵も思わなかった。

翔くんだって帰ってくると思ったのに、なんで。


「まず、説明してほしいの」


不思議そうにこちらを見つめる那月も、毛布の下は全裸である。それなのに私は前夜の記憶がない。それはどういうことなのか。


「…昨夜のことですか?」

「それ以外になに。」


私は那月に背を向けた。悲しそうな顔をして見られたら、計算だとわかっていてもノックダウンしてしまう。


那月はぽつりぽつりと、話しはじめる。言葉を選ぶように、少しずつ。


「貴女は昨夜、雨でずぶ濡れになりましたよね」

「うん、それで私の部屋より近い那月の部屋で体を温めることにしたの」

「その後のこと、覚えてますか?」

「だから、そこが聞きたいって言ってるの!」


私はなかなか言い出さない那月にイライラを隠せず、思い切り寝返りをうって、那月を睨みつけた。すると彼ははぁ、とため息をついてまた寂し気に私を見つめた。


「莉音、貴女は酷く身体を震わせていたんですよ。意識もあまりないようで…」

「…?」

「寒がっていたんです、だからとりあえず濡れた服は乾かそう…と、僕の洋服に着がえさせたんです」

「うん…」


私の脳内回路はだんだん話についていけなくなる。雨に濡れて那月の部屋に着いたときからの記憶を自分なりに整理するが、抜けているところが非常に多かった。


「ですが…それでも貴女の体温は下がるばかり。そこで、僕は思い出したんですよ。1番効率的に体温を上げる方法を」

「それって…裸で抱き合う…?」


私が恐る恐る聞くと、案の定彼はこくり、と頷いた。


「悪いとは思いました。ですが、私の努力も聞いてください莉音!」


私のために、仕方なく尽くしたことだと言われると責めようにも責めづらいところがあった。だから私は彼なりの努力も聞いてあげよう、と寛容な気持ちだった。


彼は急に声を荒げると、そのときの苦悩を話しはじめる。


「…僕は…はっきりいって眠れませんでした。貴女の滑らかな肌に触れ、僕の腕の中にいる貴女をただ見ているだけなんて…」


前言撤回。


「この変態!ちょっと!寄らないで、て言ってるでしょ」


彼はジリジリと私との距離をつめる。私はベッドの端へと追いやられる。ベッドから出て逃げたかったが今現在何も着ておらず、それは厳しかった。

ついに彼は私を抱き寄せる。


「僕、ずっと我慢してたんですよ?」

「知らないよそんなの…っ…やぁ!ちょっと!」


彼の手が私の身体に沿って、下から上へとさりげなく動く。身体をよじれば、がっちりとつかまれて、身動きさえとらせてもらえない。


「莉音…もう…耐えられない」

「やぁっ…きゃ…ちょ、やめて!」


彼は私の制止も聞かずに、無理矢理に私の上に跨がった。そして声をあげる間もなく、口を塞がれる。その間も彼の手は容赦なく働き続けた。


「…はぁ…あぁんっ…だめ…ねぇもうやめ…」

「もっと…聞かせて…?」

「やぁ…きゃあ!」

「ここが弱いんだぁ…莉音…」




そのまま私は彼に愛され続けた。










(もう、絶対許さないから)
(なんだかんだ言って、最後は求めてたじゃないですか…)
(ああもう、うるさい!)






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