短編2

□ほろ酔いテンプテーション
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「んー…梅酒もう一杯…」

「後輩ちゃん、飲むねぇ!そういうコ、好きだぞ!さぁ、飲んだ飲んだーっ」


目の前のコップにコポコポと音をたてて、注がれる梅酒。私は先程から少しふらふらとする目線に気がつかないふりをしながら、コップに手をかけぐびっと半分ほど飲み干す。

「梅酒おいしー…れいちゃん先輩のいれ方がうまいのかなぁ…」

「おっ、いいこと言うねっ、後輩ちゃん!」


そして隣に座っていた彼は、私を抱き寄せて頭をこれでもかとくしゃくしゃ撫でる。見上げれば、彼の顔も真っ赤になっているように見えた。彼は、いつでもテンションが高いから酔っているのか判断がつかないが、表情を見る限りでは酔っていた。


少しだけ頭が痛い。どうしてこんなことになったんだっけ、ふと考えを思い巡らせると、パートナーであるさっちゃんと、たまたま事務所に行ったら久しぶりに先輩と会ったことを思い出す。それから先輩と、事務所で仲のいいスタッフさんと、急遽飲み会や行くことになった。しかし、さっちゃんは未成年だからお留守番………ここまで思い出して、ふっと肩を先輩に預ける。


「……もう、帰らなきゃ……」

「ええっ、そんなつれないこと言わないでさぁ!もっと飲もうよ!ね?後輩ちゃん!」


肩をとんとん叩かれたかと思えば、半分に減っていたグラスが、満杯になる。


「れいちゃん先輩……んー…眠いから……」

「なるほどねぇ…」


先輩が、私に顔を近づける。そして頬にそっと触れた。それから顔をしかめる。


「これだけ熱いんじゃしょうがない…か……。後輩ちゃん、今夜は送ってくよ」


そして彼は、立とうとするがなかなか立てない私をそっと抱き寄せて、自分に寄りかからせると、そのまま敬礼のポーズをとった。


「んじゃあっ、後の支払いは任せたよーんっ!僕のもよろしくっ☆」

「また…よろしくお願いしま…す」


私の口からは、これが精一杯だった。







夜風が頬にあたって心地がよかった。ほてった熱が少しだけ引いていくのを感じ、自分で歩こうと試みる。しかし、その度に彼に止められてしまう。


「後輩ちゃん、無理はだめだよ。今は僕に頼っていいから」

「…ありがと…ございます」

「本当は少し具合が悪いんだろう?そういうのは我慢してちゃだめだよ、ね」


たぶん彼は酔っていただろう、と思っていた私は、驚いた。彼は私のことを観察してくれていて、ギリギリのところで助けてくれたのだ。そして今の彼は驚くほどに冷静だった。


「酔っていたんじゃ…ない…んですか?」

「僕、お酒には強いんだ。だけど、場の空気を乱しちゃうでしょ、だから酔ってるふりをね…しー、だよ?」


人差し指を自分の唇に当てて、いたずらっぽく微笑む彼は、私の目にかっこよく映った。

その瞬間だった。


「…うっ…」


頭痛と吐き気がいっぺんに襲ってくる。そのまま、私はへなへなとしゃがみこむしかなかった。


「莉音ちゃん、悪いけど、このまま君を家には帰せないよ」


彼の言葉が聞こえた直後、ふわっと浮いたかと思えば彼の顔が間近にあった。彼は、私を横抱きしてスタスタと歩き始めていたのだ。


「僕の家の方が近いから、僕の家に行くよ、いいね?明日は仕事ないんだろう?」


こくり、と頷いた私をみると、彼は仕方ないな、とため息をつきながらそっと笑って、道を急いだ。








「ん……」

「お目覚めかな?後輩ちゃん」


気がつくと私は、見知らぬ部屋の見知らぬベッドに寝ていた。しかも見知らぬパジャマを着て。


「後輩ちゃん、あの後僕の腕の中でぐっすり眠っちゃったんだ。…もう、無防備なんだからっ!」


ベッドの横で座っていた彼は、私の額にぴしっとでこぴんをくらわせる。そして、複雑な顔をすると、小さな声で呟く。


「今も、だけどね」

「……?」

「君は、わかっていないよね。今、どういう状況なのか………僕だってオトコ、なんだよ…?」


ギシッと音がした。
彼は布団越しに私に跨って、両肘を私の顔の横についていた。私はわけがわからず、きょとんと彼を見上げた。


「莉音ちゃん、君は悪い子だ…」


人差し指ですっと唇をなぞられたかと思えば、彼の顔が近付いてきて………一度だけ、唇に暖かい感触。しばらくしてふと目を開けると、彼は歯を食いしばっていた。


「こういうことするために、家に連れてきたわけじゃない…だけど、もう止められない…っ」


そして再び口づけ。私が気がついたときには、彼の舌が私の舌をとらえて離さなかった。私は、始めは抵抗したが、力の差に圧倒されて、されるがまま。


「…っ、その目…僕を煽っているようにしか見えないよ、莉音ちゃん」

「ちが……そんなつもりじゃ…」



その直後、ガチャガチャ、バタン!と音がして、私たちは自然に玄関の方へ視線を送る。その瞬間、彼の体が固まった。


「おい、それ以上手を出したらどうなるかわかってんだろうな、寿。」

「…っ、ちょっとした冗談だよ、あはははは…」

「さっちゃん…?」


そこには頼りになるパートナーが立っていた。そう、公私共にパートナーである、四ノ宮砂月が。彼は、そのまま私の方へ歩いてくると先輩を突き飛ばして私を抱き寄せ、無言で部屋を出た。


「ごめん、後輩ちゃん」


部屋を出るとき、そんな声がしたような気がした。



(だから飲み会には行かせたくなかったんだよ)
(ごめん…なんでわかったの?)
(お前の携帯に繋がらなかった、だからスタッフに聞いた)
(ありがと…)
(頼むから心配かけるな…ちゅ)




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