短編2

□trio
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真っ青な空に、真っ白のアイスクリームのような入道雲。遠くを眺めれば、色とりどりの水着を着た多くの人達が楽しそうにはしゃいでいて、その奥には空までつながる青い海。私は、潮の香りがする風を大きく吸い込んで、走り出した。


「お待たせー!」

「わぁっ!莉音ちゃんかわいいですっ!ぎゅーっ!」

「ったく、遅いんだよ。行くぞ」


私は今日、四ノ宮の双子たちと海水浴へやってきていた。せっかくの夏休みだから、となっちゃんからのお誘いで。そのときさっちゃんは、お前ら2人だけだと心配だからという理由でついてくることになったが、本心は違うはずである。


「なっちゃん暑い!海で泳ごう、ね?」

「そうだ、離れろ那月…俺にも触らせろ」

「だーめっ、だって…こんなにかわいいんですもん」


なっちゃんの言葉に少しだけ嬉しくなる。この日のために甘いものを控え、家でトレーニングを積み、ダイエットしてビキニを着た甲斐があったというものだ。勿論、なっちゃんのかわいい発言は希少価値が高いものではないので、注意すべきところではあるのだが。


「さっちゃんは、なんか感想ないの?」

「そうだな…エロいはずのビキニだが…お前、胸小さいな」

「莉音ちゃんは、小さくても敏感でかわいいのが特徴なんですから…」

「なっちゃん、フォローになってないよ」


そんな風にワイワイと会話しながら、私たちは海へ近づいていく。砂浜は熱くて、裸足で歩いていた私たちは途中から走り始める。そして、そのまま海へとダイブ。冷たい水が気持ちいい。


「気持ちいいですねぇ」

「あははっ、さっちゃん頭にわかめついてる」

「くそっ、笑うな…そういうやつには…」


彼はそう言った途端、私の肩紐をするん、と落とす。それを見たなっちゃんは、楽しそうに私を見つめもう片方の肩紐をするん。私はたまらず、奇声を発し胸を隠す。公共の場でなにやってくれてんのこの双子。


「ちょっと!やめてよもう!」

「ははっ、この反応がたまんないんだよな、那月」

「うん、すっごくかわいいっ!ねぇ、もう一回やってもいい?」

「だめっ!」


こうして、私たちは海で泳いだり浮輪でぷかぷか浮いてみたり、海の家でかき氷を食べたり…と楽しい時間を共有した。

しばらく時間が経つと、小さな子供を連れた家族は引き上げていき、海辺には人がまばらになってきた。夕陽がだんだんと海の向こうに消えていき、空をキャンバスにして幻想的な絵が描かれる。私たちは、その光景を砂浜に寝そべりながら見上げていた。そしてしばらくそのままでいた後、なっちゃんがこんなことを言い出したのだ。


「ねぇ、花火やりませんか?僕、こっそり持ってきていたんです」




あれほど幻想的だった空が、黒く染まり、ついに海辺には私たちだけしかいなくなってしまった。そこで、バケツと花火セットを持った私たちは意気揚々と花火に火をつける。


「ついた!」


私の手持ち花火は、シューッと音を立てながらピンク、緑と色を変えていく。なっちゃんのは、黄色。彼は嬉しそうに、その花火を振り回して楽しいですね、と笑った。そんな彼を注意したさっちゃんも嬉しそうに、花火に火をつけた。


「こういうのっていいね」

「そうですね、なんだか夏休みって感じがします。花火なんて、久しぶりだったから尚更…」

「そうだな…お前たちとこうやって過ごせて楽しいよ」

「「さっちゃん!?」」


普段の彼からは絶対口に出ないような言葉だったから、私となっちゃんは思わず声をあげてしまった。するとさっちゃんは不服そうに、別にいいだろ、たまには…と私の頭をくしゃっと撫でた。


「ほら、それより花火もっとやるんだろ?まだまだこんなにあるんだ。那月、ひよこの花火やるだろう?」

「ぴよちゃんの花火、僕がやっていいの?わぁい、ありがとう!」

「あっ、私線香花火やろっかな」

「お前、どうせすぐ落とすんだろう?」

「失礼なっ」


そして、火をつけてもらった線香花火。小さかった玉が、徐々に大きくなっていく…それに合わせて花火の方も徐々に模様を広げていった。気がつけば、なっちゃんのぴよちゃん花火はいつのまにか終わっていて、二人とも私の線香花火の様子を見守っていた。


「そんなに見られたら緊張して手が震え……」

「「「あっ」」」


成長していた玉は、一瞬にして砂浜へと消えた。この瞬間の切なさは、形容しがたい。だが、儚いものの美しさとはそういうものなのだと思う。


「お前、やっぱり不器用だな」

「なっ!」

「じゃあ、今度僕がやってみてもいいですかぁ?」


そしてなっちゃんの線香花火。彼は最初から危なっかしい。模様を形作る度にふわぁっ、と声をあげ、その度手が震える。


「ああっ、僕…全然だめでした…」

「那月、お前のはきっと運が悪かったんだ」

「えっ、」

「今度は、3人で持ってみないか?安定感が増すかもしれない」


さっちゃんの提案で、私たちは最後の線香花火を皆で持った。そして3人が目を合わせて頷くと、さっちゃんがもう片方の手で火をつけた。


「ふわぁっ!」

「なっちゃん、じーっとしてなきゃだめだよ!」

「お前もな」

「さっちゃんだって、震えてるじゃないですかぁ」

「「「!!!」」」


ぽとん、と小さな光が落ちてあっけなく終わった線香花火。私たちは皆の顔を見渡して、誰からともなく笑いだす。暗い海辺に、私たちの声が響き渡った。




(楽しかったですね)
(またこの3人で来ようね)
(ああ、絶対だ)

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