短編2
□jour mémorable pour nous deux
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私はうだるような暑さの中、いつもより少しだけお洒落をして、とある場所へと向かっていた。それは、四ノ宮砂月の家。私たちは学生時代からパートナーであり、そこから恋愛関係に発展したのは言うまでもない。
今日は、そんな私たちの3年記念日。彼から家に誘われたときは、記念日を覚えてくれていたことに本当に驚いて涙を流しそうにもなった。なんせ、彼は過去2回ほど記念日を忘れていたから。
彼の家の玄関に立ち、はやる気持ちを抑えて震える手でベルを鳴らすと、中から声が聞こえてきた。
「開いてるから、入れ」
「はーい」
いつものやりとり。私は遠慮なくドアを開けたのだが………
「暑い!なんでクーラーつけないのよ!」
「ああ、壊れた」
壊れた………へぇ。彼は、ソファーに座りテレビを見ていたようだが、上半身は裸だし、下もトランクス…のままに見えた。
「さっちゃん、今日何の日か知ってる?」
「ああ、海の日だろう?」
…期待して損した。
うん、そうだね…間違ってはいない。だけど、それよりもっと大切なことがあるんじゃないかな?
「うん、他に思いつかない?」
「お前の生理が終わる日」
テレビから目を離さずに真顔で言い放った彼に、私は戦慄を覚えた。周期を教えた記憶はないし、今回はいつもより早めに終わったというのに。
「よ、よく知ってるね…」
「お前のことならなんでも知ってるからな」
彼はそう言うと、テレビをおもむろに消して私に手招きした。私は、荷物を持ったまま、彼の隣へと移動する。
「なぁ、なんかいいもん持ってそうだな」
彼は私の持っていたスーパーの袋を指差し、暑そうに汗を拭った。たいしたことない動作なのに、今でもドキドキしてしまうのは惚れた弱みか。
「本当は、夕方になってから…と思ったんだけど……暑いから、飲んじゃおうか!ビールなんだけど」
「ああ、飲んじまおうぜ…こう暑いとお前を襲う気もなくなる」
ニヤリと笑った彼をスルーしながら、私は買ってきたものをテーブルに広げた。缶ビール数本に、おつまみ。私は、食器棚からペアグラスを取り出すとそこに注いだ。
「かんぱーいっ!」
「乾杯」
「ぷはー、暑いとこで冷えたビールはいいねー!」
「お前、飲みっぷりが親父くさくなってきたな」
「さっちゃんなんか、泡ついてるけど」
「気のせいだろ」
こうして私たちは、一通り飲み会を楽しんだわけなのだが……お互いお酒に強いわけではなく、私はほろ酔い、彼はかなり酔ってしまった。
「さっちゃぁ、お酒…」
「もう、ないんだよ…。それより……お前もっとこっちこい……」
すると彼は私の腰に手を添え、グッと力をこめて引き寄せた。そして私の肩にそっと頭を乗せ強く抱きしめてくる。
「どうしたの…さっちゃん?」
「ずっと……寂しかったんだよ」
「へ?」
彼は、まるで子猫のように私にすりすりすり寄ってきて、普段なら絶対言わないことを口走る。そして私を離さないままで、耳元に唇を近づけてそっとキス。それからまた、話し続ける。
「最近お互い忙しくて…会えなかっただろう?俺は…本当は…お前とここで住みたい…ずっと傍に…いたいんだ…」
彼の声は、どんどんか細くなっていった。少しずつ吐息の量が増え、私はたまらずぴくっ、と反応をしてしまう。恥ずかしながら、耳は弱いのだ。
「んっ…」
「愛してる…莉音」
普段甘い言葉を囁かない彼なのだが、彼はそう言うと私の耳をぺろぺろと舐め始める。舐めながら、彼の手は私の衣服を緩めていた。
「砂月…?んっ…」
私はお酒と、彼の滅多にでない甘い言葉に酔っていて、抵抗することは不可能だった。私は彼に身体を預けて、流れに乗った。
「お前の全てが欲しい…」
そしてはだけた鎖骨に吸い付くようなキスをして印を残すと、下着のホックを外す。そして鎖骨からゆるゆると舌が胸へと降りていく。彼の舌は私の胸の頂点を捕らえ、彼の手は私の膨らみを堪能するように揉んでいく。
「ん…ぁあ…っ」
この状況の中では、自分で漏らした声でさえも媚薬になりえた。彼は、それを知ってか知らずか…弱いところばかりを責め、私はそれにほだされていった。
「はぁ…はぁ…っ…」
全てが終わって、私たちはお互いを抱きしめながらぐったりしていた。彼は、満足そうに微笑み私の唇にそっとキス。
「もう…お前とは…3年になるんだな…」
「…えっ、うん…」
「今までありがとうな…これからも……よろしく頼む……」
「えっ、砂月!?」
ふわりと微笑んだ彼は、私の返事を聞かずにそのまま深い寝息をたてた。彼は、もしかしたら気付いていたのかもしれなかった。私は、彼のそんな不器用さにくすっとして彼にキスすると、私もそのまま眠りに落ちた。
(…おはよ…お前にこれやる)
(えっ、)
(3年記念……だよ、言わせんな)
(用意してくれてたの?)
(うっせ)