短編2

□best position
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「おい、莉音起きろ。朝メシの時間だぞ」


私が目を覚ますと、そこにはエプロン姿の砂月がいた。近くに置いてあった電波時計を確認すると、12月25日、8:30、と表示されていた。そうか、今日はクリスマス。私は起き上がろうとしたが、腰に鈍い痛みが走ってなかなか起きられない。


「いだい…」

「まあ、そうだろうな。昨夜は派手にヤったからな」


口端をあげてニヤリと笑う彼を見て、私は慌てて顔を隠す。媚薬を仕込まれて、いろいろなことをされた昨夜は二度と思い出したくなかった。恥ずかしすぎる。


「昨日はいつになく積極的だったもんなぁ…なかなか可愛かったぜ?」


そう言って彼は私の頬を撫でると、優しく身体を抱き起こした。そして、大丈夫なのか?と背中を撫でる。


「あ、うん…ちょっと痛いけど…」

「ならいいが…つい俺もコントロールが効かなくてな、悪かった」


そう言って頭をぽんぽん、と撫でると彼は私をテーブルへと誘導した。テーブルの上には昨夜余ったホワイトシチュー、フランスパンに、各種ハム、チーズ、それにサラダ…と朝からクリスマスチックだった。


「おいしそう…」

「お腹すいてるんだろう?ほら、食べろ」


無理矢理席に着かせると、彼はシチューをふぅふぅ冷まし、私の口へと運んだ。そして私が食べはじめると満足げに微笑む。


「あったまるねー」

「おっと…ついてるぞ」


彼はシチューを食べた私に近付いてきて、口の端をぺろりと舐めた。どうやらシチューがついていたらしい。だが私は突然のことに驚き、みるみる熱が集まってしまう。


「もうっ…びっくりするでしょ…」

「なに照れてんだ、恋人同士だろうが」


そう言うと彼は頬にキスして、更に赤くなった私を見て微笑んだ。

(その微笑みにも弱いのに…)









それから、私たちはテレビを見たり音楽を聴いたりしながら、普段と変わらないような時間を送っていた。ただ、服装を除いては。

いつの間にか砂月が買っていた、ミニスカサンタの衣装。それを私は着せられていた。ワンピースと言えるのかと疑問に思える程の短さのワンピースに、帽子。しかもこのワンピースには紐がなく、チューブトップのように胸の上のところがゴムになっているパターン。つまり貧乳の人が着ると、ワンピースが落ちてまる見えになる。


「うぅ…」


私はさっきから落ちつかなげに、服を上にあげていた。私はお世辞でも巨乳とは言えないし、砂月に言わせれば、貧乳、まな板、だそうだ。それなのにこんな衣装を着せて…


「どうした…?」


二人でソファに座っていたわけたが、隣に座っていた彼が倒れ込んできた。そして膝に頭を載せる。


「それはこっちの台詞。どうしたのよ」

「あ、服ズレてる」

「え!?」


慌てて胸を隠した私に、彼はくすくす笑って冗談だ、と答えた。そして腰に手をまわして、ぎゅっと抱き着くと、居心地が良さそうに瞳を閉じた。私はそんな彼の髪を、ゆっくり撫でる。


「やっぱり、ここが気持ちいい」

「そう?」

「ああ、1番落ち着くぜ」


いつもは狼のような彼が、猫のようにまるまっていた。そして今にもゴロゴロ言い出しそうな表情をしていて。だから私は、思わず首に触れてみた。


びくっ


砂月の身体が大袈裟に反応して、目が開いた。そして私を真っ直ぐ見つめた。


「やめろ」

「…もしかして、弱点な」

「違う。絶対違っ…ておい!」


私は彼の話を最後まで聞かずに、手の平でさらっと首元を触れた。するとまた、びくっと反応して私を睨む。

(なにこれ可愛い)


「ハムスターみたい」

「ああ?なんだと…!」

「だって、びくってしてかわい」

「お前、後悔すんなよ?」


すると彼はいきなり起き上がって、私をソファの上に押し倒した。そしてニヤリと笑うと、首筋に強めのキスをして、印をつける。慌てて抵抗したが、手首をがっちり抑えられ、逃げることもできない。


「おい、お前サンタクロースなんだろう?なら、欲しいものはくれるんだよなぁ」

「え、えっと…砂月!?落ち着いて?まだ夕方…んむっ」


今度は啄むように唇にキスし、やっとのことで離れたと思ったら、舌がぐいぐいと入り私を翻弄する。相変わらず、私は彼にされるがままだった。

唇が離れると、彼は首筋をぺろりと舐めた。ザラザラとした感触に私は思わず反応して、声が出てしまう。


「…ぁ」

「我慢なんて…いらない。よっぽど…お前の方が弱いじゃねぇか、首」


そして首筋にもくっきりと印をつけられ、私は砂月をからかっていいことはないんだ、と改めて心に刻んだ。









「莉音、こっちこい」


いきなり彼に呼ばれたのは、彼との夕食が終わり、私手づくりのブッシュドノエルを二人で食べた後だった。片付けも終わっていて、休憩をしていた私に彼は手招きをしたのだ。


「なに?」

「目を閉じろ、いいな」

「は?」

「俺がいいって言うまで目を開けるな」


私が目を閉じると、彼は私の後ろへまわった気配がした。そしてガサガサと音をたて、私の首にヒヤリとした感触。それから彼は私を立たせると、歩きだした。一体どこに連れていくつもりなんだろうか。

彼が突然立ち止まる。


「よし、開けていいぞ」


目の前には、大きな鏡。ここは洗面所だった。いつもと変わらない風景。けれど、サンタクロースの衣装を着ている私の首には……


「ネックレス!」

「ああ、なかなかよく似合ってる。クリスマスだからな、お前にと思って」


それは小さなハートのモチーフの、シンプルなネックレス。ダイヤモンドのように輝くシルバーが、無数に集まってハートを象り、リングのようになっている。それは、私の首元で持ち主を引き立てるよう控えめに輝いていた。


「ありがとう、砂月!私、嬉しい!」


思わず後ろを振り向いて、ぎゅっと抱きしめると、彼は何も言わずにそっぽを向いてしまった。ただ、耳が赤かったのだけは隠しきれていなかった。






「私はね、コレ」

「…」


リビングに移動して私がプレゼントを手渡すと、彼は私があげたプレゼントを見て、ふるふると震えた。


「マフラー。砂月、冷え症だし防寒グッズがいいかなって」

「まさか…お前が…?」

「…うん、まぁ一応…。編み物得意じゃないけど、頑張ったんだよ」


すると彼は、首に巻いてその匂いを嗅いだ。そして、お前の匂いがする、と楽しそうに笑った。私はそんな彼の肩によりかかり、頭を載せた。


「私の愛がしみこんじゃったのかな、ふふ」

「なんか…お前抱きしめてるみたいで安心する…」

「本物抱きしめてよ、クリスマスなんだから」


そうやって私がジョークを言うと彼はそれもそうだな、とふわり笑いマフラーを私の首にもかけた。そして腰に腕をまわす。私たちは今、かなり密着していた。


「幸せ…」

「当たり前だ…」

「…」

「隣に俺がいるんだから…。…一生この場所は譲らない。例え那月でもだ」


そうして交わした口づけは、今朝食べたケーキよりも甘く、窓に映る雪よりも優しい、ふわりとしたkissだった。





(…クリスマスって感じだね)
(普段なら、こんな甘いこと絶対言わない)
(言っていいんだよ、待ってるよ私)
(…少しは黙れ…ちゅ)

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