短編2

□年下の男の子
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※眼鏡外しても那月です



私の彼氏は年下である。それだけならばいいが、超売れっ子アイドル…の卵なのだ。そんな彼と私は、縁あって同棲をしている。事務所にも理解をしてもらっていて。そして私は一般人。決まった時間に会社に行って、よほどのことがない限り決まった時間に帰路につく。
だいたい私の方が仕事が早く終わるので、家に着くと彼を待ちつつ夕食を作っていることが多い。

(今日の夕飯はホワイトシチュー)


私は今キッチンに立って、だいたいの作業を終えたところである。パンを切って、サラダも準備OK、そしてシチューもよそうだけ…そんなとき、外からバタバタという音がして、ドアが開く音がした。…なっちゃんだ。

私はエプロンをつけたまま、玄関の方へ向かった。すると、彼は私に「おかえり」も何も言わせずに前から覆いかぶさってきた。


「…どうしたの?何かあった?」


普段の彼なら、にこっと笑って顔中にキスをしてから抱きしめるはず。私は頭をよしよしと撫でながら優しく声をかけてみた。


「…ちょっとお仕事で失敗しちゃって…」

「そっか…。寒いからとりあえず中入って、ご飯食べよう?それからいろいろ聞くから、ね?」


すると彼は抱き着いたまま、こくりと頷いて私の後ろにまわって抱きしめなおした。


「なっちゃん?」

「離れたくないんです…ぎゅー…」


全くもって歩きづらいのだが、私は剥がれない彼が可愛くて仕方がないので、そのまま食卓へとのそのそ歩いていった。






彼をなんとか座らせて、パンにサラダにシチューに…とテーブルに準備をすると、彼は先程落ち込んでいたのが嘘のようにぱあっと瞳を輝かせて私を見つめた。


「おいしそうですねぇ…僕、お腹ペコペコだったんです!」

「温かいうちに食べようね、はい、いただきます」

「いただきまぁす!」


すると彼は私をじーっと眺め出した。先程、お腹はペコペコだと言ったんだからさっさと食べればいいのに、彼は私を見つめ、目が合うとにこりと笑う。


「なっちゃん…凄まじく食べづらいんだけど…」

「…?」

「どうして私のこと…」

「あのね…あーん、してほしいんです」


(なるほど)

今日の彼はいつにも増して甘えたさんだった。私は、口を開けて待っている彼にシチューを掬って、ふぅふぅ息で冷ましてから流し込む。


「なっちゃん、あーん」

「あーん…」


すると彼は幸せそうに口をもぐもぐさせ、私に向かってにこりと微笑んだ。私は自分よりも可愛らしい彼に改めて惚れなおした。


「もう一回…食べたいです」


(Ah...my angel!!)








そして今、私は浴槽につかっている。入浴剤を入れて乳白色になったお湯が、私の身体を包んでいた。しかしその優雅な一時も一瞬にして壊された。


ザザーと音をたてて流れ出す、乳白色のお湯。そして窮屈になった浴槽。脚を引っ込めて縮こまる私。目の前には………


「気持ち良いですねぇ…」


頭にタオルを乗せた四ノ宮那月。窮屈なはずなのに、気持ち良さそうに浴槽に浸かるなっちゃんは、傍にあったゴム製のぴよちゃんを浮かべて遊びだした。


「なんだか…莉音ちゃんとお風呂に入るのなんて、久しぶりだから…ドキドキしちゃいます」

「…私だって緊張してるのよ」

「でも…せっかくだから…」


彼はボソボソと呟くと、にこっと笑って前から思いきり抱きしめてきた。しかし、窮屈で抱きしめにくいのか彼は四苦八苦していた。確かに、体育座りをしている私を抱きしめようと思ったら脚ごと抱きしめなければならず、なかなか思い通りにいかない。


「こんなに近いのに…届かない…。僕には抱きしめる資格がないのかなぁ…」


しゅん、と肩を落としたなっちゃんは、寂しげにこちらを見つめた。そして私の頬をさらりと撫でる。お風呂のために、眼鏡を外したなっちゃんの瞳は、とても綺麗だった。


「僕…貴女と離れたくないのに」

「一緒にいるじゃない」

「莉音ちゃんの温もりを、ちゃんと感じていたいんです」


そして彼は、ぴよちゃんをツンツンとつついたり、時折私をじっと見つめたり落ちつかなげにそわそわとしていた。

(なにこの可愛い生き物!)


「とりあえず、頭と身体洗おうね?」


すると彼は波をたてながら突然立ち上がり、私に向かってこう告げた。


「僕が洗ってあげます!」










「ああっ…ちょ…どこ洗っ…ひゃあんっ」


全ては私がいけなかった。普段より甘えん坊な彼が、こんなことするなんて夢にも思わず、予測できなかった私が。

頭を洗うまではよかった。たった今、私の後ろに座って嬉しそうに身体を洗ってくれている彼は、執拗にスポンジや指で私の弱点ばかりを洗う。私の目の前の鏡には、楽しそうに笑う彼と彼のテクニックに悶える淫らな私が映っていた。

白い泡が滑りをよくして、普段とはまた違う刺激を与える。私は彼に触れられる度に喘いだ。


「なっちゃん…っ…どうしてこんな…っ…はぁんっ」

「こうして…貴女を責めれば…僕を求めてくれるかなぁって…」


少しだけ顔を曇らせた彼は、私のお腹に両手をまわし、後ろから強く抱きしめた。そして、私の肩に頭を乗せて、耳元で囁く。


「僕は…貴女が好き…。勿論、莉音ちゃんも僕を好きでいてくれると思うんです。」

「うん、大好きだよ」

「でも…愛情表現をするのはいつも僕で…ぎゅーってしたり、ちゅってしたり…。ときどき不安になっちゃうんです」


(そうだったのか…)


彼は寂しげに俯くと、そのまま動かなくなってしまった。私はそんな彼を見かねて、後ろを振り向くと、自分から強く抱きしめた。顔が真っ赤になっていることを隠すために、彼の胸に顔を押し付けて。


「莉音…ちゃん…?」


驚いたような声をあげた彼は、私を優しく抱きしめた。そして嬉しそうに私の耳にキスし、あげくのはてには耳たぶを甘く噛む。


「…っ…これでわかった…?」

「はい、貴女も僕を求めてくれた…ということは…」


私が顔を上げると、彼は今日1番の笑顔を見せた。そして私をがっしりと抱きしめる。


「続き、してもいいんですよねぇ」








(だ…め…っ!)
(こんなに身体は正直なのに…)
(もう!)
(可愛いって…僕にも言わせて…?)

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