短編2
□一枚上手なカレ
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数多くが蔵書されている早乙女学園の図書館。この学園の生徒たちは本を借りるのは勿論、自習室まで整備されたこの図書館で、課題や音楽の知識をつけるために勉強に励んでいる。
本をめくる音と、ペンを走らせる音しかしない図書館だが、今日は違った。
「…うーん。どうもわかんないなぁ…」
私は楽典の本とにらめっこをしながら、自分のノートを見直す。基本的な音楽知識がないままに、早乙女学園に入学してしまった私は筆記試験の方が危なかった。
「大丈夫ですか?」
隣で勉強に励むパートナーの那月くん。彼は私に寄って、楽典の本を眺めた。そして私に顔を向けると、お手伝いしましょうか、と爽やかに微笑む。
「これって…?」
人差し指でさすと、彼は、そこでしたら…と呟き熱心に話しはじめる。
彼は幼い頃から音楽に親しんでいたこともあり、とても詳しかった。本来ならば作曲をする側の私の方が詳しくなりそうなものなのに。
「…ですから、これがこうなって…」
しかし、先ほどから顔が近いように思うのは気のせいだろうか。心臓が不整脈になりかけ、爆発しそうなくらいに派手に暴れまわっている。それに比例するように、顔がどんどん熱くなっていく−−−
「…というわけなんですよ…あれ?どうしました?」
「なな、那月くん!顔…近くないかなぁ…?」
「そうですか?」
彼はきょとん、とした表情で首を傾げる。そして瞳を大きく開くと、私の顎を掬った。
「顔、紅いですね!風邪ですか?」
「違いますって!は、放して…」
「慌てる貴女も素敵ですねぇ、なーんて」
口角を少し上げて笑う彼に、私の顔は湯気が出ているのではと錯覚するほど異常に熱が集まっていた。
「ななな、那月くん!」
ちゅ
微かなリップ音の後の沈黙。
彼は私の顎を掬ったまま、頬にキスを贈ったのだ。そして彼は爽やかに笑っていた。
「那月くん!ななな、なにを…」
「親愛の印ですよ?それとも貴女は…別の何かかと思ったんですか?」
彼からは爽やかな笑みは消え、黒いオーラをまとった悪戯な微笑みにとってかわった。
そして私の肩に手をまわすと、耳元で囁く。
「僕の部屋に来てくれたら、お望みの場所にキス致しますよ」
ガタン!
私はいてもたってもいられず、席から勢いよく立ち上がった。すると彼は冗談ですよ、なんて爽やかに微笑んだ。