賢者の石

□第六章
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酷い頭痛がする
手足も重いし、指先まで痺れている



深い眠りに落ちていたようだが、なにかおかしい
体を起して見回してみると、自分の部屋だと確認できた
でも、いつもは部屋の至る処にいる蛇達が見つからない
しかも、部屋の全てがモノクロだ
たまに色があると思ったら、僅かなブラッドレッド



俺の部屋になにがあった……orz





『起きたか、グラーディア・オリビエ』



「ッ!?」





ふと、背後から声がした
どんな声というよりかは、どんな音の方がしっくりくる
存在感のない、水のような『声』だ





「…誰だ、お前」



『ほう、あまり驚いていないようだな… 
 俺様はヴォルデモート卿、闇の帝王だ』




ヴォルデモート、闇の帝王という事は…




「ポッターの両親を殺し、殺すはずだったポッターに倒された、間抜けな魔法使いか?」



『………間抜けという処を除いては、その通りだ』




背筋が、氷のように冷たくなった
口では余裕なフリをしていたが、内心は脅えきっていた



怖がり後退する俺の体がベッドから落ちる
酷く滑稽な俺の姿を見たヴォルデモートが、にたりと厭らしい嘲笑を浮かべる
まるで、逃げる事など許さないと云うかの様に迫る





とん
ついに俺の背中は部屋の壁についた
それを後期にと、ヴォルデモートは一気に間を詰めた





「…あんたを倒したのはポッターだ」



『グラーディア・オリビエ』



「あんたを倒したのはハリー・ポッターだ!俺に何の用がある!?」



『そうではない』





逃げようともがく俺に、ヴォルデモートは諭すように言った
聴覚が浸食される




『俺様の手足となれ、グラーディア』




放たれたのは、死へと誘う呪文ではなく、想いもよらない言葉
意味を処理し終えると、俺の頭の中を絶望が浮かんだ
そして、余裕も




「ハッ…馬鹿らしい…」



『なに?』




なにもない。拍子抜けもいいところだ
魔法界を長年怯えさせていた闇の帝王が、俺のようなガキに頼る理由が解らない



闇の帝王がなんだ。もう、恐ろしさは無くなっていた




『貴様は、人を侮る事が好きなのだな』




考えていた事が、バレている、背筋がまた氷のように冷える
いや、なによりも



怖、い……。





『今、この場で死ぬか?』




ヴォルデモートの顔で、俺の視界は埋め尽くされる
透けていたはずの体が、実態を持っている
感触もある、俺の首に細い指を絡ませる




『ハリー・ポッターを殺すのを手伝えと言っているだけだろう』




「なッ…」




『奴は、貴様にとっても邪魔な存在だろう』




待て、待て待て待て待て。確かに、少しは嫌だけど…殺したい程じゃない
同級生を、生き残った男の子を手に掛けるなんて、そんなの正気じゃない
俺は、いままでも、これからも、何事にも中立な立場でいたいのに




『お前が欲しいのは、無償の愛か?』



「………」



『それとも、なにがあっても離れない人間か?
 心の底から間守りたいと思える人間であろう?』



「違、う…」



『その為にも、ハリーは邪魔だろう?
 いつも「ソイツ」はハリーにばかり興味を持っている。
 「特別」で「珍しい」ハリーが、妬ましいだろう?
 お前に無い物を持っているハリーが』



「違う、違う!出まかせを言うな!」



『何故拒む?闇とは心地よいものだ。
 善が否定する貴様の悪も、俺様が受け入れてやろう。
 貴様が隠し続けてきた狂気も全て。
 優しく撫ぜ、慈しみ、その功績を称えよう。
 お前も、それを昔から望んでいたのだろう?』



「違う、違う!!!」



『違うわけがなかろう…… グラーディア、貴様の心の内を言ったまでだ』





俺が、思っていた事?ポッターが妬ましい…?




確かにそうだ。ポッターさえいなければと、何回思ったのだろう
ポッターさえいなければ、「彼」は、俺の事もっとしっかり見てくれるのか?




自分の狂気の涙なのか、ヴォルデモートへの恐怖なのか、それともただ憎しみなのか……
涙が俺の頬を伝う




幾重にもなって流れる涙を、ヴォルデモートは親指で拭った
その顔には、迷惑も、面倒も、嫌悪の表情もなかった
演技なのか、本心なのか、慈悲で溢れていた







『もう一度聞こう』






青白く、指の長い手が頬に触れる







『俺様の手足となれ、グラーディア・オビリエ』







「……喜んで……我が君……」








その時、俺の心の中が、狂喜で満たされた気がした
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