Short

□テレフォンコール
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※高校設定、未成年喫煙表現ありますが真似しないでください。優しい紳士柳生はここにはいません。















柳生くんと仁王くんは顔がよくにている。
むしろ、柳生くんの方が鋭くて、病んでそうだ。
これを言っても賛同してくれる人などほとんどいないのだが。

以前、柳生くんが眼鏡を拭いているときに、わたしが不注意で偶然柳生くんの机にぶつかってしまったことがある。その時の冷たい刺すような瞳をわたしは忘れない。すぐに謝ったわたしに対して、彼は眼鏡をすぐにかけ直し、「だいじょうぶですよ。あなたにお怪我はありませんか?」と、いつもの柔らかい柳生くんの口調で微笑んでくれたが、あの時は本気で身震いした。
わたしの中で、あのときの柳生くんは仁王くんの変装だった説が一瞬浮上したが、その直後屋上で「よー、くろこ。おまんもサボりじゃろ?」って仁王くんが声かけてきたから、多分あれは柳生くんで間違いない。
わたしと仁王くんはサボり仲間だけど、連絡先も知らないし、仁王くんに至ってはわたしの名字も知らない。お互い興味もないのだ。サボるときに、たまたま同じ場所でサボってるから、一緒に暇を潰す、その程度だ。わたしが煙草を吸ってると「煙いの嫌いじゃー」とか言って、煙草勝手に取って消して、わたしの制服に鼻をくっつけてスンスン嗅いだ後に「やぎゅーと同じ匂いするけぇ、やぎゅーも吸ってるかもしれんのぅ」と呑気に言ってのけるのだ。柳生くんが吸ってたら大問題でしょ!と、笑い飛ばしてたことも記憶に新しい。
仁王くんは、多分柳生くんにわたしのことを話したことがないのだろう。仁王くんと柳生くんが入れ替わってる日は、屋上であっても先程のような会話をしないことを根拠に、わたしはそう思っている。だから、わたしはあの冷たい瞳は柳生くん自身のものなのだと結論付けたのだ。

ある日、わたしはいつも通り退屈な現代文の授業をサボって屋上に足を運んだ。大好きな相棒、マルボロとライター片手に重い扉を開けると、そこには先客がいた。仁王くんだ。

「あれ、仁王くん………?」

普段はわたしからは絶対話しかけないのに、この日話しかけたのは、あれだけ煙いのは嫌いだと言っていた仁王くんから煙が立ち込めていたからだ。

「この匂い、わたしと同じ煙草……仁王くん……いつから…」

わたしの呼び掛けに振り向いた仁王くんの瞳を見た瞬間、数日前のやり取りが脳内をスパークのように駆け巡った。

「やぎゅーと同じ匂いするけぇ、やぎゅーも吸ってるかもしれんのぅ」

からだが弾かれるように衝撃を受けたわたしは咄嗟に「柳生くん……」と口走った。
次の瞬間には、仁王くんに扮した柳生くんに肩を掴まれ、壁際に押し当てられていた。

「いっ……」
「竹本さん、でしたか」
「柳生くん、肩……!」
「何故私だと?」
「マル……ボロのにお、い」
「は?」
「仁王くんが、わたしと柳生くんは、同じ匂いがするって、前………。それに、仁王くんは煙草の煙……苦手、っ!」

仁王くんの煙草嫌いの事を話すと、柳生くんは一瞬驚いた顔をしてわたしの肩から手を離した。相変わらず冷たい瞳に見つめられて、わたしはさながら蛇ににらまれた蛙だ。

「そんなことも、知っているとは。相当仲が良いようですね」

とげが刺さる物言いにビクッと肩を揺らす。

「別にそこまでは…。仁王くんはわたしの名字も知らないし、接点なんてここだけよ」
「そうですか?まぁ私にはあまり関係ありませんけどね」

フンッ、と鼻で嘆息した柳生くんは、ただでさえゆるゆるのネクタイを完全にほどいた。

「柳生くんは、仁王くんよりずっと鋭い目をしてるよね」

柳生くんの流し目がゆるゆると突き刺さる。

「そうですか?はじめて言われました、他人には」

"他人には"ずいぶん引っ掛かる言い方だ。
まるで、身内にはよく言われるかのような………いや、きっと本当によく言われるのだろう。仁王くんも、きっと。仁王くんは、「やぎゅーは結構怖いやつじゃよ。目が俺とは違うぜよ」と、たまにこぼしていけど、きっと本人にも言ったことがあるのだろう。
わたしが眉をひそめて柳生くん(今は仁王くんのウィッグだけど)の髪を見上げていると、柳生くんがネクタイを片手にいい笑顔で喋りかけてきた。

「ところで、折角なので仁王くんに扮した私と遊びませんか?」
「は、」
「イイコトしましょう?くろこさん?」

柳生くんが何をせんとしているか気付いたときにはもうすべてが遅くて、ネクタイに縛られた両腕は柱に固定され、目の前に現れた綺麗な顔に息を呑むことしか、わたしには出来なかった。




「ここであったこと、全て忘れるまでトばしてあげますよ」



そう言って笑って見せた柳生くんは今までで一番美しくて、輝いていた。

ああ、ほんとにこの人は

「病んでるのね」
「そうですね」

これ以上わたしに喋らせる気が無かったのか、わたしの唇は噛み付くような乱暴な口づけで無理矢理閉じられ、視界もそこで暗転したままわたしの記憶は途切れている。






ーーーーー。


「くろこ」
「ん?んー………」
「なーに寝ぼけてるじゃ」
「あれ?仁王、くん?」
「そうじゃよ、どーしたんじゃ。珍しいのう、こんなとこでお昼寝でもしとったんか?」

目を覚ますと目の前には、いつもの仁王くんがいて。気を失う前の事を思い出して勢いよく飛び起きると、仁王くんと頭をぶつけてしまった。

「いっ………!ま、まぁ元気そうじゃの」
「あれ?服……?」
「服?」

服に乱れは一切なく、むしろ綺麗に着せられていて、

「?」

ポケットの中に綺麗に折り畳んでしまわれていたメモには、メモ書きがあった。

『目が覚めたら、ケータイを見てくださいね』

名前がなくてもわかる、柳生くんの字だった。
言われるがままにケータイを見ると、受信メールが一件。差出人は見たことないアドレスで、無条件で柳生くんだろうなということは分かったが、内容をみて絶句するしかなかった。


『ナニかの縁ですので、これからも時々私の暇潰しに付き合ってくださいね』
という、見た目だけは優しい誘い文句と、先程の行為中のわたしの写真が数枚添付されていた。

「…………」

あ、逃げられない、と悟って固まっていると仁王くんがぽつりと一人言を落とした。

「さっき、やぎゅーと会っての、くろこのこと初めて話したんじゃ。同じクラスで結構仲良いそうじゃな〜初耳ぜよ」

仲良いなんて、わたしも初耳です。

「やぎゅーはヤンデレだし、しつこいしねちっこい男じゃけど、これからも仲良くしてやってほしいぜよ」




その日を境に、時々テレフォンコールがかかってきては、わたしは柳生くんとひとときを過ごすこととなる。




「ようこそ、くろこさん。今日もイイコト、しましょう?」







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