柳くんと一緒

□柳くんが思う
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うちのクラスに転入生が来た。

本当に変な時期だな、と疑問に思った。何故始業式の1週間後に転入なんだ。だったら始業式から来ればいいだろう。これは気になる。
ならば、調べてみるか?
少し興味を持って、当たり障りのない自己紹介をする転入生を見る。竹本くろこと言うらしい。これは俺のデータに書き加える必要があるな。
データ用のノートの新しいページに竹本くろこが書き加えられる。
すると、

「じゃあ竹本は一番後ろの窓側の席だから」

と、担任が言う声が聞こえた。そうか、昨日まで一人席だった俺の席の隣に、今日になって突如として新たな机が現れたのは、転入生がこの席に座るからだったのか。どうやら彼女は隣の席に来るらしい。ならばよく観察出来るだろう。
ニコニコと可愛らしい笑みを湛えて、スキップしながらこっちに向かってくる竹本に些か疑念を抱く。
もしかして、竹本は俺を知っているのだろうか。あまりの満面の笑みに、一つの可能性が頭をよぎる。テニス部ファンか?どこかで俺らの事を知り、転校してまで近づこうとする。そして、運良くテニス部レギュラーである俺の隣の席になり嬉々としている。……そう考えると、変な時期の転入にも頷ける。この考えだと、俺が自意識過剰の自惚れのように思えるが、実際我が立海のテニス部は中等部のころから非常に有名であり、このような可能性だって否めないのだ。
確率としては、48%といったところだろうか。
そんなことを頭で考えていると、竹本は席に着いたようで、何ともなしに俺の方を向き直る。すると、急にハッとした表情になる。
おっと、これは予想外だ。
俺のとなりだから、という理由で浮き足立っていたわけではないのか。
ならばとりあえず挨拶をしてみて、様子を見よう。

「柳蓮二だ。よろしく」

すると、竹本は益々驚いたような顔で俺を見つめながら、掠れた声で俺の名を途切れ途切れに発する。

「やな……ぎ、れんっ、じ……!」

その様子だと、やはり俺の事を知っているらしい。これは、先ほど頭の中で立てた仮設を裏付けているのではないか?そう思っていた。ならば、この女も例に漏れず媚びた自己紹介をしてくるだろう、そう考えて冷ややかな目で竹本の次の発言を待った。
しかし、その女の言葉は俺の予想とはまったく違っていた。

「いやあ……申し訳ない。聞き覚えのある名前で驚いてしまったの。わたしは竹本くろこ、よろしく柳クン」

媚びるでもなく、無関心を装うでもなく、ただただ距離をとるような、あまりにも綺麗で、あまりにも残酷な微笑みだった。
社交的な、と言ったらそれまでかもしれない。だが、あの笑みは社交辞令と言うには冷たすぎた。細やかな拒絶のように感じた。だが、その中にうっすら見え隠れする期待と怯え………これは面白い。

「中々興味深いな…さらにデータを集めるべきだな」

そんなことを知らず知らず声を出してしまった自分に叱咤し、窺うように隣の席の竹本を見るが、我関せずといった様子で、楽しそうに前を観察していた。
そんなに俺に興味がないのか。

少し悔しくなり、データを集めながら、いつかコイツの瞳に俺だけが映るようにしてやろう…と、名前も知らない感情を一人胸に抱き、俺は今後の狙いを竹本に定めた。



干渉を決めたその日




(竹本は一人暮しか)
(竹本はみかんが好きなのだな)
(…この距離すらもどかしいな。もう少し近付きたいのだが)





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