絶頂理論
□爪痕
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ある日突然、全校生徒からいじめを受け始めてから1週間がたった。
原因は分からない。呼び出してくる女の子は、訳もなく「ブス」だの「死ね」だのといった罵声を浴びせ、時には飽き足らず暴力までふるってくる。
わたしの机はすごく汚い。
教科書もボロボロ。
靴に異物は日常茶飯事。
「アンタうざーい」
「消えなや、ブス」
「謙也くんや白石くんやって、アンタに迷惑してるんやで!」
「………!」
彼女たちは、初めてこのイジメの原因と思われるものを溢した。わたしが、謙也と白石くんと仲良かったからなのだろうか。そういえば、昔から、彼らテニス部と仲良くした女の子たちは、決まってこんな状況になってた気がする。違うのは、わたしの場合男子も敵だということ。今まで謙也がいたから、わたしは平和だったのかもしれない。
謙也は幼なじみだし、わたしのこと邪魔だとか、ウザいとか言ったこと、一度もなかったのに。白石くんだっていつも楽しそうにしてくれていたのに。
彼女たちが言ってることは、本当なのかな。
謙也、早く戻ってきてよ。
それで、「違うよ」って言ってよ。
思わず涙が零れた。
「こいつ泣きよった。萎えるー」
「もういこかー。授業始まるやん」
「こいつのせいで遅れるとかありえん。はよいこー」
名前も知らない女の子たちは去って行った。
わたしの涙は止まらない。
わたしは、謙也や白石くんと仲良くなっちゃだめだったのかな、わたしは……「そのみちゃん」
後ろから、声がした。この声は、
「白石く……」
なんで。白石くん、わたしのこと迷惑なんじゃなかったの?それとも白石くんもわたしを、「そのみちゃん、怯えんといてや」
「なんで……、白石くんが…」
「呼びだされてるの見えてな、先回りしててん。……そのみちゃん、助けたろか?」
「……え?」
「無駄のない、完璧な方法…あるで?」
「ほん、とに?」
「ほんまやで。ただ、今のそのみちゃんの生活は壊してしまうかもしれへんな」
「いい。それでも良い。わたし一人暮らしだから、生活が壊れても大丈夫。大丈夫だから」
タスケテ
「交渉成立やな。ほな、俺の手を取りや、そのみちゃん」
わたしは迷わず、白石くんの毒手―左手をとった。そのまま引っ張られて白石くんの腕の中に収まる。久々の人の温もりに、また涙が溢れてきた。
「俺がちゃぁんと守ったる、せやから」
俺から離れたらアカンで?
まるで甘い毒のように耳を犯す白石くんの声で、張りつめた心が溶け出して、わたしは意識を手放した。
急速に失われていく意識の中、最後に見たのは白石くんの歪みきった綺麗な笑顔だった。
囚われたのは
わたし。
「絶対、離してやらん」
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