柳くんと一緒

□柳くんの関東大会
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「くろこ〜〜〜〜〜!!!来てくれたんだねえええええ!!」

ドンッと鈍い音がした後に、俺に何かがもたれかかってきた……いや、何か、というのは正しくないな。それは紛れもなく竹本自身だったのだから。

「……!竹本…?大丈夫か」

咄嗟に受け止めたのはいいが、竹本の後ろに葵々もひっついているから、その…なんというか、嬉しさも半減。というより、重い。

「くっ……葵々、不意打ちでタックルとはなかなかやるね…!」
「えへへー」
「いや、それいつものパターンっすから。いい加減くろこ先輩も耐性つけてくださいよ」

出会いがしら(というには少し語弊が生じるが)にタックルをかました葵々の後ろから赤也がひょっこり顔を出した。その顔はいささか不機嫌そうに見受けられた。
試合に出ることなくして優勝してしまった関東大会決勝に物足りなさを感じ、不機嫌になっているのだろう。
それもまあ、うなずけないこともない。なんといっても、赤也はこの関東大会決勝では試合に出ていないのだ。さらに言うなら、むしろオーダーに組まれてすらいない。オーダーを組んだのはほかでもない、この俺だが、これにはきちんとした理由がある。一緒にオーダーを考えた精市と話し合った結果だ。
今はもう落ち着いたとは言え、中学の頃のデビル化の影響はいまだに残っている。青学との試合は再発の危険性があるとの判断だ。さらに言うなら、海堂と当たりでもしたら、本当に再発……むしろ悪化するとも言えなくもない。その可能性を懸念して、今回は赤也の出場を見送ったのだ。
赤也にとっては不満が募るばかりかもしれないが、俺は間違った判断をしたとは思っていない。赤也には悪いが、これが当然の結果だろう。

「やあ、赤也少年。関東大会優勝、それから全国出場決定おめでとう」
「ッス。でも、俺試合出てないっすよ」

やはり、その不機嫌そうな顔の原因はそれだったか。
ツーンと余計に口をとがらせ、顔をしかめていく赤也に対して、それを気にするでもなく竹本が言う。

「まあ、赤也少年はまだ1年だってのに、ゆくゆくは次期立海を背負うことになる期待のエースだからね。こんな早々に他校にその実力をお披露目したげる義理はないってことなんじゃないの?」
「へっ?」

竹本の思わぬ言葉に思考回路が追いついていない赤也をしり目に、竹本はさらに続ける。

「てことはさ、来年あたりに台頭して、柳クンたちが卒業した再来年、大いに成果を出すってことだよねえ。うん、お姉さん楽しみだよ、赤也が再来年、全国決勝の舞台に部長として君臨することが」

そう言うが早いか、竹本は赤也の頭をぐりぐりと掻きまわして、「期待してるよ、若きエースくん」と、軽くその頭を小突いた。
すると、赤也はみるみる顔を紅潮させて、嬉しそうにほころばせると、「はいっす!期待しててくださいよ!」と言って、嬉しそうに駈け出して行った(どこに行く気だ?)。
さっき竹本が言ったことはかけらも思ってはいなかったが(失礼)、赤也の機嫌を直したことについては、お礼を言うとしよう。もっとも、こいつが本当に意識してさっきのようなことを赤也に行ったのかどうかは定かではないのだが。一応だ。

「竹本、ありがとうな」
「ん?どういたしまして?」

はぐらかされてしまった。
感謝された意味がわかりませーん、みたいな顔をしているが、若干目が笑っていた。やっぱりコイツ、確信犯だったらしい。
なのに、正直にどういたしましてと言わないあたり性質が悪い。誰だ、こいつをデータ系に目覚めさせたやつは。
事あるごとにどんどん厄介な女になっていっている気がする。
計算高い女が好みだとかほざいていたころの自分を殴ってやりたい衝動に駆られたが、できないことを望んでも栓無き事なので、ここら辺でやめておいた。

「んねー、くろこ、あたしのこと忘れてないー?」

すると、先ほどからほとんど構ってもらえてない葵々が不満をこぼし始めた。

「忘れてないよー、よしよし」
「ほんとかなー?」
「ほんとだよー」

抱きしめ合った格好でお花を周囲にまきちらしながら話し込む二人だったが、突然竹本が俺の方を見た。

「柳クン、そろそろ表彰が始まるみたいだよ、いかなくていいの?」

どうやら、表彰に関する放送が流れていたらしい。ぼーっと目の前の光景に集中していた俺は全く気づいてなかったので、助かった。

「ああ、忘れていた。そろそろ行くとしよう」
「ん。いってら」
「ああ」

くるりと踵を返してコート入るべく歩き出すと、突然後ろから声がかかった。

「柳クン」

思わずその声に振り向くと、竹本が綺麗な笑顔を浮かべて

「改めまして、優勝……おめでとう」

と言ってきた。いまさら過ぎてびっくりしたが、その一言があまりにも嬉しくて、俺も笑ってしまった。

「ああ、ありがとう」

緩んだ顔を見られるのが恥ずかしくて、そのままコートの方に振り返り、俺は軽くなる足取りをなんとか制御して、地に足が着くのをしっかりと確認しながら、すでにチームメイトの集まるコートへと急いだ。

優勝がこんなにも嬉しいと思えたのは、いつぶりだったか。




全国出場を決めた日






(んーふーふー!)
(え、どうしたの葵々)
(いやあ、艶っぽくなっちゃってって思ってね)
(ん?誰が?柳クン?和風美人だしねえ)
(……参謀、哀れなり。だなぁ……)
(?)





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