柳くんと一緒

□赤也くんを助ける
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「ヒーローみたいだったね、くろこ」
「………え?」

ちょっと待って下さいよ、今葵々先輩何て言った?くろこって、確か

「くろこって…竹本先、輩?」
「そうだよ。あれ?気づいてなかったの?」
「え、だって全然雰囲気が…」

俺の記憶にあるくろこ先輩は、長い髪をひとつに束ねて、もう少し女の子っぽい感じだった。メガネだってかけてなかった。だけど、さっき俺の目の前で代わりに、問題を終息に導いた人は、どちらかと言えば中性的なショートカット、黒渕眼鏡、そしてあの服装…。一見少年のようにも思える。そんな人が、どうしてあのくろこ先輩と繋がるだろうか。いや、繋がるはずもない。

「髪、切ったんだよ。本気でテニスやりたいから、心機一転だーって」

まるで自分の事のように、嬉しそうに語る葵々先輩はやっぱり可愛いけど、今はなんか……よくわかんねぇけど、竹本先輩がすごく気になってた。

「くろこはね、軟式テニスが本当に好きだから、真摯な態度で臨んでるから。……赤也に、あんなことで暴力沙汰起こして、出場停止になってほしくなかったんじゃないかな…?だから、代わりに自分が“正当防衛”を振りかざして、守ってくれたんじゃない?」

葵々先輩の言葉で、俺の心は完全に動いた。

「竹本先輩が…俺を、…俺たちのテニス部を守って…」
「全国制覇、してほしいんじゃないかな」
「俺たちの、全国制覇を…」

立海大附属の、優勝を
あの人は守ろうとしてくれたのか。馬鹿見たいに“ワカメ”に反応して、赤目モード…或いはデビル化で我を失った俺が、過剰な暴力を奮わないように。

「くろこに、感謝しなきゃね、赤也」

そうだ。俺の心は決まった。
俺は、自分の身を削ってまで、大会出場を守ってくれた竹本先輩の恩に報いるためにも、絶対に全国制覇してやろう、って。

「俺、ぜーったいに竹本先輩に優勝旗を送ってあげるッス!」
「その意気だよ、赤也!」
「ッス!」
俺の中で、竹本先輩の立ち位置は、“堤先輩と対等にテニスでやり合った凄い女の人”から、“俺の憧れの人”に変わった。


それから、後日、竹本先輩が、俺の中学からの憧れで、越えたい人の中の一人である柳先輩と同じくらい頭がよくて、データ収集能力も非常に高いという話を人伝(ていいか、情報元は専ら柳先輩と葵々先輩だけど)に聞いて、更に憧れを強め、竹本先輩からくろこ先輩に呼び方を変えて、ことある毎に竹本先輩のもとを訪ねたり、引っ付いて回ったりするのは、また別の話。




(この間は赤也を助けてくれてありがとうな)
(え、何の話?)
(赤也の大会出場停止を危惧して、代わりに撃退したのだろう?)
(え、あれ赤也くんだったの?ってか、何その尾ひれのついた武勇伝)
(………)

実は、助けようだなんて微塵も考えてなかったのに、二人の勘違いでヒーローに仕立てあげられちゃってたって話。



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