柳くんと一緒

□赤也くんを助ける
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俺は、部活の帰り、葵々先輩と帰路についていた。そして、ちょーっと喉が乾いたから近くの自販機にポンタを買いにいっていた。そんで、ちょっと目を離した隙に葵々先輩の姿が見えなくなっていた。辛うじて、先輩のものと思われるスカートの裾が見えていたから、その裏路地に向かって走った。なんか悪いことに巻き込まれてなきゃいいけど…!
なーんて、俺の願いも虚しく、案の定ゴロツキっぽい奴等に絡まれてた。

「ほんと可愛い〜」
「ちょ、やめて、ください!」
「い〜じゃ〜ん」
「せっかくここまで連れ込んだんだからさ〜、何もしないのはナシっしょ!」
「ギャハハ!確かに!」

葵々先輩は押しが強い一面もあるけど、根が優しいから、こういう時振り切るのをためらっちまうんだ。だから、

「おい、アンタらその汚い手ぇ離せよ」

俺がかっこよく守るしかないじゃん?
だから、葵々先輩を少し後ろに下げて、俺が男たちの前に出る。

「あ?なんだァ?クソガキ」
「邪魔すんじゃねーよ」
「ギャハハ!こいつワカメみたいな髪してんぜ!」
「うっわ、まじだ!ギャハハハ!」

最近の俺は、コイツらみたいに下品に笑うやつらなんか相手にしないようになってきたのに、やっぱダメだ。禁句言われちゃあさあ、

「アンタ、潰すよ?」

赤目になるしかないじゃんよ。ねぇ、柳生先輩。

「ぁ゙あ゙?上等だこのクソガキがァ!」
「やめてください!彼には、大会が…!」
そんな葵々先輩の悲痛な叫びを完全に無視して、下卑た笑みを止めた男たちのうちの1人が俺に拳を振るいあげてきた。上等じゃん?んな遅い拳なんか、軽く避けられるし。……寧ろ返り討ちにしてやんよ!
そう思って、拳を構えた。すると、目の前に人が飛び込んできて、俺の拳を軽く押しやった、そして、

「え…ちょ、アンタ…!」

その人が代わりに殴られた。
小柄な少年(のように見える)は、あまりに華奢な体つきなので、軽く吹っ飛ばされるかと思ったが、全然そんなことなく、むさろ何ともないかのように、顔以外は微動だにしなかった。吹っ飛んだ方が衝撃を流せると言うのに。
「な、なんだこいつ…!」

男の声を聞いて、俺もハッと思い出す。こいつ、何勝手に助けてんだ。

「何やってんだよ、俺避けられたってのに…!」

しかし、そいつはそんな言葉に何を言い返すでもなく、
「あっは、もう完璧すぎて笑っちゃう」

なんて呟いた。
え、この声の高さ…まさか、女…?

「なんだ…?」
「な、こいつ…女…?」

どうやらアイツらもこの飛び込んできたやつが、ガキではなく、それなりに成長した女であることに気付いたらしく、若干狼狽していた。しかし、その膠着状態も長くは続かず、あの女が殴ってきた男を打ちのめした。一瞬、何が起きたのかわからなかった。

「……!」
「はっはー!正当防衛だから。先に手を出したの、アンタ達だし?」
「このクソアマ…!」
残された2人がまとめて女に殴りかかる。そして、そいつは避けなかった。

「ゃ…!」
「な、なんで…!」

隣で葵々先輩は顔を手で覆い、小さな悲鳴をあげた。俺は俺で、驚きを隠せなかった。あの身のこなしなら、避けられないはずがなかったのに。
しかし、総てのなぞは、女の次の言葉で合点がいった。

「アンタらも大概、馬鹿だね。わたしがアンタらをブチのめす理由を、自ら作ろうとするなんて」

そうか、先程言っていた“正当防衛”をまた実行したのだ。

「な、なんなんだこの女は!」
「めちゃくちゃ強ぇ…!」
「古武術は伊達じゃねえ…ってね」

この女は古武術の使い手らしい。…氷帝の日吉がテニスに応用しているアレ、か。

「アンタらみたいなクズが葵々に手を出すなんて、100万年早いっての」

その一言で、ゴロツキっぽい男たちはそそくさと逃げていった。
女が葵々先輩の方を振り替えると、僅かに涙を溜めた葵々先輩が、綺麗に微笑んでいた。いつもなら見とれているけど、今日はなんだか違った。あの女の人が、予想外に割り込んできたからだろうか。

「葵々、大丈夫だった?」
「うん、ありがとう!」
「そっか、よかった!でも、危ないから送ってこうか?」

何だか二人だけの世界が広がっている気がする。忘れられてるみたいだけど、俺、一応男だし。

「大丈夫だよ、お伴がいるからね」
「あー…そっか、忘れてた。じゃあ大丈夫だね。じゃ、またね〜、気をつけて!」
「え、あ、ちょ!待っ…!」

その人は、結局俺を一度も視界に入れることなく、颯爽とその場を後にした。






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