樹下学園

□視線。
1ページ/2ページ


「なぁ、お前って、いつも俺のこと見てるよな?」


そう、目の前にいるコイツ…、今は目も合わせてくれないコイツは、いつも俺を見ていた。

自意識過剰なわけじゃあない。
むしろ、俺はその真逆の人間なんだから。



「何なの?俺、恨まれることでもしたか?」


あいにくだが、そんな覚えは全くない。
高校生になってからは、他人に干渉することなく過ごしてきたはず。

俺の面倒な性格のせいで、不快な思いにさせるのを避けたかったから。



「言ってくれないと、わかんないんだけど。」


まさにその通り。

他の人ならまだしも、コイツだと尚更だ。
普段から無表情、かつ無口なこの男の考えることなんか、わかるはずがない。



「俺は超能力者でも、お前と会話せずに意志疎通できるような仲でもないんだから。」


だから、何か言ってくれ。

そうじゃないと、俺はまた、傷付けてしまう。



「…まさか、俺のこと、好きなわけ?」

ほら、また言ってしまった。

違う。俺が言いたいのはこんなことじゃない。



「…何か言ったらどうだよ。ぜんっぜん、わかんないし。」

本当に、何か言ってくれ…。

…てか、こんだけ散々言われてるのに、言い返さないのも変、だよな?

いや、そんなことはどうでもいいんだ。
俺は一刻も早く、コイツに喋ってほしい。



「…から、」


そんな俺の気持ちが通じたのか、目の前の奴の口が開いた。


「なに?」





「お前が好きだから、ずっと見ていた。
それが理由じゃ、不満か?久里浜 海(クリハマ ウミ)。」





目の前の奴…、関 雄大(セキ ユウダイ)は俯いていた顔を上げて、相当なアホ面になっているだろう俺を見上げた。



が、それも束の間。



セキはゆっくりと立ち上がり、今度は俺を見下げた。



「お前が好きだよ、ウミ。」




もう、何がなんだか、さっぱりだ。

今まで信じていたことは覆され、どれが真実かがわからなくなってきている。



ただ、のぼせきった俺の頭が導きだした確かなことは、俺を抱き寄せるセキの腕は温かい、という、何とも言えない感情に襲われるものであった、とだけ言っておこう。





end.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ