中編
□26日
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「みーくーん?マサト君が来てくれたわよー?」
どうぞ、上がってー。
すみません、お邪魔します。
…なんて会話が聞こえる。
これは部屋に来るパターンだな。
こんな状況でも冷静なんて、俺ってばかっこいー。
…現実逃避くらい、してもいいじゃないか。
うだうだしているうちに、ノックの音が耳に届く。
「ミチル、入るぞ。」
「ぅえっ、はい!」
思わず、バッと布団を被る。
心拍がヤバいことになってるぜ…。
そんな俺の気も知らず、マサトはベッドに腰掛けた。
ふっ、と息を吐いた後、頭に手を置かれる。
布団を被ってんのに、よくわかるな。
「起きたらいなかったから、焦った。」
「ご、ごめん。」
「いや、ミチルのことだから、好きなテレビ番組の録画を忘れたとか、そんなことだろう?」
「そう!そうなんだ!ごめんな!何も言わないで帰ったりして。」
まさか、マサトから助け船がくるなんて。
まぁ良い。
俺としたら、好都合だったからな。
「…一緒に寝たことが、嫌だったのかと。」
「!!!!!」
布団被ってて良かった。
こんな動揺しきった顔見せたら、何言われるか…。
マサトは勘が良いから、すぐにバレてしまっていただろう。
声だけなら、誤魔化せるかもだしな。
「そうだとしたら、すぐに顔を合わせるのは嫌だろうと思った。でも、電話は出ないし、メールも返ってこないし、バイトも休むし、何かあったのかと思って来てしまった。すまない。迷惑だったよな。」
マサトがこんなに饒舌なのは、かなり稀なことだ。
心配、してくれたのかな。
「そんなこと、ねぇよ。てか、いつも泊まり行くときだって、一緒に寝てんじゃん。」
「いや、今回は一口に一緒に寝た、と言っても、抱き締めてしまったからな。」
おうふ。
直球ドストレートじゃないか。
だが、こう返せば…。
「恋人だから!」
「?」
「恋人だから、だろ?」
「…あぁ、そうだな。」
何とかなった、か?
「今日、バイトだよな。一緒に行こうぜ。」
「当たり前だろう。」
「ははっ、だな。」
何とかなった、な。
キスのことも知らないみたいだし。
杞憂で済んで良かった。
…よし、バイト行くか。
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