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▼瞬く星に手をそえて
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title by HENCE




午後10時。タイムアウトだわ。
私は瓦礫の中に立ち尽くし空を見上げた。作戦は不成功に終わってしまった。引き上げていく仲間たちと次々に現れる敵たちが目に入る。前から後ろへ私の横を通りすぎていく。

目を閉じてみる。人から創りだされた風が頬をかすって髪に当たる。一瞬だけフワッと持ち上がった髪はすぐにもとの位置に戻る。

目を開いて歩きだす。どこか静かな方へと。誰もいない方へと。歩くたびに地面に広がっている砂がシャリ、シャリ、と擦れて音を出す。いくら荒廃した東京でもまだ背の高い建物は残っているわ。ビルの屋上に向かって足が進む。

中に入ってもやはり散々荒らされたあとだったけれど、上へと続く階段はそのままの姿なので事も無く夜の空気をいっぱいに含んだ屋上へと出られた。

ぼやぁと空は霞んで見えて全然美しくない。仕方がないので空気中に漂う、私と空の間を邪魔している、舞い上がった細かな塵や砂を集めて椅子を作ることにした。モチーフは何にしようかしらと手首をくるくる回して塵たちをコントロールしていく。ただの椅子ではつまらないわ。しかし指先に集まりだした塵たちは大量になってしまい困惑してしまう。


手を伸ばすと届きそうなくらい近く見える星は澄んだ空気と闇色の空に映えていて美しい。本当に手を伸ばして星に触れてみた。親指と人差し指を丸め摘まむ、瞬いている星の1つを。

「きれい…」

独りで何をやっているのかしら私は。言葉が口から出てしまった途端に恥ずかしさがわいてきたので、慌てて戻そうとした手は突然現れた手に握られてしまった。

「綺麗だな」

「…兄さま」

「探した」

「ごめんなさい…」

「いや、いいんだ。ただ心配だっただけだ」

「…ごめんなさい」

「良い椅子だな、同じものを作るのは大変そうだ」

「そんなことないです…」

「空、星、綺麗だな」

「はい」

「砂黄、帰ろうか」

「はい」

大量の塵と砂で私が作った椅子は本の椅子だった。厚いものや薄いもの大きいものや小さいもの百科事典から文庫本まで様々な本を作り重ねた一番上に私は座っていた。本物の本ではないから螺旋階段のようにしても崩れる心配はしなくても平気だと思う。

兄さまは私の隣に同じように塵と砂でできた階段を作り私と並んで、私が星に触れた手をとった。

兄さまが作った階段で降りて手を握ったまま基地まで一緒に帰る。

その時間はとても安らかで星の瞬きのように短い出来事だった。





Fin.
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11.12.14







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