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▼ミッドナイト・ワルツ
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title by Chien11



午前3時の真夜中はまだ真っ暗。私は夜襲のために行った目標占領地区から帰ってきた。無事に占領したけど身体はぼろぼろであちこちに生傷ができてる。スカートとソックスから出た脚は特に酷い。敵の能力は迅雷だった。小さい雷が矢みたいに飛んできた。腕をかすったところがまだピリッとする。さらに崩れた瓦礫で転んだせいもあるかもって思いながら自分で絆創膏を貼り包帯を巻いた。

正直にいうと私は戦いを通して自分の得体の知れないこの能力を活用できることに救われてる。役に立ってるんだなって安心もする。きっと他の仲間もそうだと思う。同じように能力のせいで気味悪がられたり除け者にされたりしてきたと思うから。でも何で私は戦っているのか時々分からなくなってしまう。戦わないで皆で仲良くできないのかな。仲良くなれば争わないで分けあえたりできるよね。軽い手当てを終えて、考えながら自室の窓から見上げた空には月が白くひかっていて影をくっきりつくってる。こんなことを独りで考えていても答えはでない。

窓から戻り机の引き出しにはチェーンで繋がれた2つの鍵がある。私の秘密のカギ。それを手に包んで部屋を後にした。暗い廊下を突き当たると非常階段に出るドアがあり、内側からは簡単に開く。外にでてカンカンと乾いた軽い足音を奏でながら上にのぼっていく。最上階のひとつ下の階。埼玉国指導者専用の階層だ。握っていた鍵の1つをドアノブに差し込み右に捻るとカギは開いた。そこから忍び込み長い廊下を進むとすぐ右に現れるドア。キィと押すと開いてしまったことに私は心底嬉しくなる。握っていたカギのうちもう1つは使わなくてすんだのでポケットに入れた。入った部屋は真っ黒の壁紙に真っ黒のカーテン、チェスボード柄の絨毯が敷かれてる。暗いけど見慣れた室内をベッドに向かって小走りに近付く。シマウマ色のストライプのベッドシーツは黒と白に統一されたこの部屋にぴったりで、そこに眠る眼鏡を外した人にぴったり。寝顔を見ると私はなんだか涙が込み上げてきて柔らかい絨毯に座り込んでしまう。


「おかえり」

「…ただいま」

「ご苦労だったな」

「…うん」


目は閉じてるのに私の気配を敏感に感じてくれた。ホッとして嬉しくてズキッとして悲しくなった。


「ねぇ、部長。何でみどりたちは戦うの?仲良くできないの?」

「できないな」

「何で…!?」

「何でだろうな」

「答えてくれないの…」


目を開いて部長は私を見た。床に座る私とベッドに寝ている部長の目線は同じ高さで、だけど私は部長の顔を見ていない。ごそごそと手を伸ばして眼鏡をかけた部長に私は持ち上げられベッドの中に引き込まれた。背中に回された両腕でしっかりと抱かれ胸元に顔を埋められる。


「戦いが始まったからだ」

「…えっ」

「戦いが始まったから、みんな戦うんだ」

「それは止められないの?」

「誰も止め方が分からないんだ」

「……」

「こんなに傷付いて俺のために戦ってくれているやつの為に止めたくはないんだ」

「何で!?止めていいよ!みどりたちは部長の指示を聞いて戦ってるんだよ。みどりたちは戦っても戦わなくてもいいんだよ」

「お前が賛同してくれているのに成果がでない。なのに途中で止めるのは今まで俺についてきてくれたお前たちに申し訳ないんだ」

「そんなことないよ…」

「そうか…」


抱きしめている両腕に少し力をいれた部長は呟いた。いくら説明されても納得いかないけど、暖かい部長の体温を感じて私は安心してしまう。うとうとと眠りに落ちていく中で、部長は私が自分で巻いた不恰好な包帯に手を伸ばして撫でてから私の頭を抱えてもっと寄せて謝った。


「すまないな…」





(おやすみなさい、部長)
(これ以上怪我が増えないよう祈るしか出来ないのか)


Fin.
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11.12.12

片霧さんのパジャマが紫色の全身タイツだったら爆笑する








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