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□愛しさを粉砕
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「……で、結局また更新しちゃったワケ?意思弱いさぁアレン」
「………すみません」
「いや俺に謝られても」


昼休み。屋上で出くわした三年の先輩のラビが、そう言って何処か呆れたような目で僕を見てくる(ちなみに僕はお昼ご飯も膨大な量の為、周囲に気を遣っていつも教室以外の場所で食べるようにしている)。
ラビは僕と『兄さん』の本当の関係について知っている数少ない人物で、そのことは神田も承知している。だからこうして時々、悩みごととまでは言えない愚痴まがいなことを聞いて貰ったりもしていた。


「それにしてもさ、ユウもよくやるよね。休み週一だっけ?連休とか取ってたりすんの?」
「休みは毎週土曜だけですね。………というか本当は土日休みの週休二日だったんですけど……僕がちょっとワガママを言ってしまって……」
「へぇー。『アレンー、休日もお兄ちゃんと一緒に過ごしたーい』とかってこと?」
「………。……ええ、まぁ。大体そんなところです」

身体をくねくねさせて甘い声を出すラビは相当気持ち悪かったけど、事の大筋は決して間違ってはいない。
要は僕が平日だけの『兄さん』じゃ満足出来なかったってだけの話だ。でもだからって平日に一日休んで貰うという選択肢も僕は選ぶことが出来なかった。……学校が終わって誰も居ない家に帰らなければならないなんて、想像するだけで身体が震える。
そんな僕の様子を見た神田が、自分から休日は週一でいいと言ってくれたのだ。


「年末も僕が大掃除しなきゃとか初詣行きたいとか色々言っちゃって……。結局神田はお正月を過ぎて二日くらい休んだだけなんです。完全に労働基準法違反ですよね、僕だって悪いと思ってるんですよ」
「うーん、まぁ確かにそう聞くと物凄い激務にも聞こえるさ」
「ええ。神田が優しいからって、そこにつけ込んでるんです。最低ですよね、僕」
「いやー最低っつーか……。オレよく分かんないんだけど、そもそもユウって優しいんさ?」
「……は?」


ラビってばどうしてそんな当たり前のことを聞いてくるんだろう、と瞬きを繰り返す僕の目の前で、今度はラビが間抜けな顔でポカンと口を開けていた。
神田が粗野で乱暴なのは表面だけだ。そんなこと、神田と同じクラスで毎日一緒に過ごしているラビは気付いてると思ってたのに。


「え、マジで言ってんの?ユウって優しい?」
「優しいでしょう?そりゃ確かにちょっと口は悪いですけど」
「ハァ!?ちょっと!?アレンはオレに対するユウの態度を知らないんさ!アレンがいない時のユウってばッ………グハァッ!」
「ラ、ラビ!?」


突然白目を剥いてぶっ倒れたラビに僕は心底ドン引きして後ずさった………が、その背後から現れた人物に僕の沈んでいた気分は簡単に浮上する。
右の拳を握り締めて仁王立ちしているのは、僕の『兄』の神田だった(よく見るとラビの後頭部にはでっかい瘤が出来ている。まぁ特に構わないけど、ラビだし)。

「兄さん!」
「………おい馬鹿ウサギ。テメェ、うちのアレンに何吹き込んでやがる」
「ご、誤解さユウ!オレはただアレンの相談に乗ってただけで……」
「あ?相談だ?」


ラビから視線を外し振り向いた神田とバッチリ目が合ってしまい、僕は思わず身構えた。そんな僕の様子を見た神田が微かに不愉快そうに眉を吊り上げる。
僕の胸の奥がズキリと痛んだ。


「なんだよアレン。悩みごとか?」
「い、いえ。別に大したことじゃ……」
「………。ラビには言えるのに俺には言えねェのか。ふん………ラビ、お前ちょっと体育館裏に来い」
「いやぁぁぁ!アレン!ユウにも何か!何でもいいから相談してあげてぇぇぇ!」
「何でもいいからとはなんだ!マジでむしるぞクソウサギ!」

無惨に髪の毛を掴まれ引き摺られるラビには内心すいませんと謝っておく。でもラビにだって僕の悩みの本質的な部分は打ち明けていないんだから許して欲しい。

屋上からの去り際、神田がチラリと振り返ってこっちを見た。
思わず俯いてしまった僕の耳に、階段へと続く扉がガチャリと開いて閉まる音だけが虚しく響く。ハァッと思い切り吐いた溜め息は誰に届くわけでもない。


「ごめんなさい『兄さん』、でも僕は……」

本当の悩みなんて相談出来る筈もなかった。僕はこの矛盾感を抱えたままでしかいられない。


神田ともっと一緒に居たい。一緒に買い物したり、家でゴロゴロしたり、夕ごはんを二人で作って一緒に食べたり、そんな日々をもっとずっと過ごしていたい。
でもそうやって神田を繋ぎ止めておく為には僕らは『家族』でなきゃいけなかった。なのに僕が神田に抱いている感情は、とても『兄弟』としてのものとは言えない。
……それだけは絶対にバレてはいけない。それを表に出してしまったら僕らは『家族』じゃなくなってしまう。その瞬間、きっと神田は居なくなってしまうのだろう。


「神田ッ……大好きです神田……!神田ぁ!」

誰も居ない今この時だけ。
そう誓って僕は一人、屋上から見える空に向かってバカみたいに叫び続けた。





アレン様が若干病んでてすみません

 
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