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□神田くん家のお父さん※旧拍手小説
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※家族ものですが、物凄く滅茶苦茶な家族構成になってます
以下が基本設定です

神田ユウ:神田家の大黒柱、妻には逃げられた、密かにリナリーと再婚したい33歳
ラビ:神田家長男、中学3年生、髪の色は祖父からの覚醒遺伝
アレン:神田家次男、小学4年生
アルマ:神田家三男、保育園通いの4歳
リナリー・リー:神田家のお隣さん、兄と二人暮らしの26歳
クロス・マリアン:神田ユウの義父、年齢不詳
あの人:神田ユウの元妻、アルマが産まれて直ぐに勝手に離婚届けを出して行方不明











「なーラビ!試験も終わったし、今日お前んち遊びに行ってもいいだろ?」
「お菓子いっぱい持ってくよ!ヒッ!」
「………」

試験が終わった解放感に浸る間もなく話し掛けてきたのは、同じクラスの問題児双子……ジャスデロとデビットだ。
近寄りがたい外見の割には気さくないい奴等だが、今回ばかりは話は別。奴等の目的は割れている。


「ダーメ。どうせ目当てはうちの親父だろ?」
「なんだ、バレてんのかよ。だったら話は早いな!」
「うんうん!早い!」
「俺達、お前んちの父親に会いた「ダメ」

いい笑顔のデビットがまだ台詞を言い終わらない内にばっさりと切り捨てる。
これだから進路相談なんて嫌だったんさ………それなのにアイツ、時間間違えたとか言って予定時刻の1時間も前にノコノコとやって来やがって。お陰でクラスの殆どの奴にアイツの姿を見られてしまった。
そして今、俺の予想通りの展開が目の前で繰り広げられている。


「なんでだよ!いーだろ別に!母親ナンパしようって訳じゃねんだしさー」
「そうだよ!ヒッ!」
「父親だって同じ!つーか人の親に何しようとしてるんさ!とにかくダメったらダメ!」
「ちぇっ、ケチ!」
「ケチ!ケチ!」

誰がケチさ……、と込み上げる怒りはグッと我慢して呑み込んだ。
なんせうちの父親の可愛さは異常だ。昔からこの手の奴は山程いた、いちいちキレてたらこっちの身が持たない。


「いーよなー、ラビはあの親父に毎日会ってんだろ?」
「目の保養だよね!」
「…………」

目の保養、くらいの感覚だったら俺だって苦労はしない。思わず重い溜め息を吐いて勢いよく立ち上がった。

「俺、帰る!じゃーまた明日な」
「うーっす、お父さんによろしくー」
「よろしく!ヒッ!」

誰がそんなこと伝えるかよ。………という突っ込みは胸の内に押し留め、俺は笑顔でジャスデロとデビットに手を振った。













「おい、クソウサギ。テメェ、今何時だと思ってんだ?」

玄関に入るなりドスの効いた声で睨み付けてきたのは、俺の実の父親のユウ。
怒った顔がとっても怖いけどとっても可愛い。よく言われるけど俺と全く似ていない。


「図書館にいたら時間忘れちゃったんさ。別に遊び歩いてた訳じゃないし」
「テメェのことなんざ心配してねぇよ。平日は早く帰ってきてアレンの宿題みてやれって、いつも言ってんだろ?」
「いーじゃん、どうせアレンはまたリナリーのとこ行ってたんでしょ?」

ユウに背を向けて靴を脱ぎながらそう言うと、数秒の沈黙を経て背中を激しい衝撃が襲った。
涙目で振り向く先には女子顔負けに綺麗なユウの脚のライン。どうやら背中を蹴られたらしい。ヒドイ、息子を蹴るなんて虐待だ。


「馬鹿か!リナリーに迷惑が掛かってんだろうが!」
「リナリーがいいっつってんだし問題ないだろ?つーかその蹴り方痛い!」
「あれは大人の社交辞令だろ!リナはああいう性格だから嫌な顔ひとつしねぇが、フツーは毎日押し掛けりゃフツーに迷惑なんだよ!ちったぁ考えろこの馬鹿ウサギ!」

自分が『ラビ』なんて名前付けた癖にクソウサギだのバカウサギだの好き勝手言ってくれるよな……と思ったけどそれは言わないでおいた(これ以上キレられるのも面倒だ)。
ひとしきり怒鳴ってスッキリしたらしいユウは、あっさりと踵を返しリビングに向かっていく。俺も形だけはしおらしく、トボトボとユウのあとに続いた。



「ラビ、お帰りー!」
「うわ、アルマ!ちょっ、手ぇミートソースだらけじゃん!待って待って!制服には触らないで!」
「お帰りなさいラビ。なんで帰ってきたんですか?」
「アレン、お前………。聞いたユウ!?こんな辛辣なこと言う弟の面倒、どうやってみろって言うんさ!?」
「うるせぇな、いいから早く夕飯食っちまえよ」


そう言いつつユウは椅子の背にかけてあったエプロンをおもむろに装着し始めた。そしてキッチンに入ると、コンロに火を付け俺の分のスープを温め直してくれている。鍋をかき回すユウの白いうなじから目が離せない。

……カワイイ。もう30過ぎたオッサンの筈なのになんでこんなに可愛いんさ。


「ほらスープだ飲め。………ってラビ?どうしたぼんやりして。熱でもあんのか?」
「へ?あ、いや、別にっ」
「馬鹿は風邪ひきませんよ、ユウ。それより僕、今日はユウと一緒にお風呂入りたいんですけど」
「は!?ユウと風呂!?」

アレンの発言に思わず目を剥いてしまった。突然大声を出した俺に、ユウは驚いたようにこっちを見つめている。夕飯のミートソーススパゲッティを大量に頬張ったアレンが、そんな俺を見てニヤリと笑った。


「別に構わねぇけど……。なんだよ、学校でまた怖い話でも聞いてきたのか?」
「はい、そうなんです。僕怖くて、とても一人じゃ入れません」
「仕方ねぇな……アレンはオバケとか苦手だもんな」


……いやいやいや。この子、ユウが居ないところでは大人も泣き出すホラー映画とか平気で見てるからね。

アレンがいつも通りネコ被っているのを冷めた目で眺めていると、自分のスパゲッティを食べ終えたらしいアルマが勢いよく椅子から飛び降りた。やっぱり手がミートソースだらけで、ユウが慌ててタオルを持ってアルマに駆け寄っていく。
ユウに抱え上げられてアルマはご機嫌なようだ。すりすりとユウに頭を擦り付けているアルマを見ている内に、ふといい考えが浮かんで口許が綻ぶ。


「アールマ。今日はアレンがユウと一緒にお風呂だって。だからアルマは一人で入らないとなー」

そう笑い掛けるとアルマの顔が一気に青ざめた。ちょっと気の毒な気もするけど、アルマが一番ユウには効く。

「やあぁぁぁ!アルマもユウとお風呂ぉ!」
「ちょ……暴れるなアルマ!……ラビ!お前が入れてやればいいだろが!」
「そうですよ!たまには弟の面倒もみてくださいよ!」
「えー。俺はいいけど、アルマがユウと入りたがってんじゃん」
「ユウとお風呂ぉ!ユウとお風呂ぉぉぉ!」


とうとう泣き出してしまったアルマにユウは直ぐ様降参したようだ。抱き締めてポンポンと背中を叩く様子をアレンが羨ましそうに眺めている(それでも一応我慢してるとこだけは評価してやるさ)。

「仕方ねぇ、今日は三人で入るぞアレン」
「ええ!?うぅ………わかりました」


ざまぁみろ、ユウと二人きりで風呂なんて10年早いさ(実際10年経って入ってたら怖いけど)。

さっきのお返しにニヤリと笑う俺を、アレンはユウ譲りの鬼のような怒りのオーラを背負って睨んでいる。そんな膠着状態の俺達の背後で、天然の色気を垂れ流したユウと無邪気なアルマがじゃれ合っている……。
それが俺達の家、神田家の日常だった。


 
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