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□畳に忠犬
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「ん……?」
時刻は恐らくまだ朝方。
ふと目覚めてしまった俺は、目に入るいつもの自分の部屋とは違う天井の木目に内心首を傾げた。
数秒間そのまま停止して、ふと至った結論に納得して身動きを再開する。
………そっか。今、修学旅行中だったさ……。
暗闇のなか目を凝らすと、遅くまでばか騒ぎしていた同室の友人たちの安らかな寝顔がぼんやり見えた(見廻りの先生が怒鳴り込んでくるくらい騒ぎ倒してたから、みんな疲れてるんだろう)。なんとなく目の冴えてしまった俺は、トイレにでも行っとこうと部屋の扉側に身体を返す。
「………なぁっ……」
………っびっくりした危うく大声出すところだったさ!
だってこんな不意打ちでこんな寝顔、誰かが部屋に女子連れ込んだのかと思っちまうさ……。
ドキドキと早打つ胸を押さえながら息を落ち着かせる俺の目と鼻の先には、すやすやと穏やかに眠り続けているユウの顔。
ユウは普段から夜早いらしくて、そういや廊下側の一番端の布団で俺らが騒いでるのを尻目に早々に眠ってしまっていた。
「…………」
とりあえず初期衝撃が納まった俺は、改めて目の前のユウの寝姿に視線を投げてみる。
何時も硬く釣り上がった目許は若干下がり気味。顔回りには柔らかそうな黒髪がさらさらと散らばっている。俺からの角度だとどうしても見えてしまう、綺麗な鎖骨。その奥にぼんやり覗く白い肌は、ほのかに汗ばんでいた。
「………ユウって、やっぱり美人さんさ……」
思わずポツリと呟いてしまったその時。ユウが微かに身動ぎする。
もしや起きたかと思って一瞬緊張するものの、ユウの眠りはだいぶ深いらしく、しっかりと閉じられていた唇がやんわりと緩んだだけだった。
やべぇ、なんか変な気分になってきたさ……。
ユウのうっすらと開かれた唇から、しなやかそうな舌がチラチラと呼吸の度に見え隠れしている。何故かそんなユウから目が離せない。下半身にも心なしか違和感がある(その辺はあんまり自覚したくない)。
そんな悶々とした思考を秘かに頭の中に巡らせていると、不意に静かだったユウが寝苦しそうに唸り出した。
あれさ、俺が見つめ過ぎってことなんかな。何か怨念めいたものを感じ取ってしまったのかも。
「んっ……んあ………ラビ……」
「………!」
つーか今!なんで俺の名前が出るんさ!?一体なんの夢みてるんさユウ……!しかも今ので俺の息子さんがちょっとだけ(誓ってちょっとだけ)反応したさ……!
「ん、あ……んー………スー……」
「…………」
再び穏やかな寝息を立て始めたユウを見下ろす俺の目は、もしかしたら獣めいたものになってるかもしれない。
でもちょっとだけ。ちょっとだけならいいよねユウ……。
「………頂きます」
ボソリと呟いて相変わらず無防備なユウに顔を近付けていった………その瞬間。
後頭部に何か命の危険を伴う程の打撃を感じ、俺の意識は一瞬消え失せかけた。