Long

□シンフォニック不協和音
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「ラビ、お前。また女の子フッたんだって?」
「俺もきーた、弦の女子たちが騒いでたし。ビオラ科の首席の子だろ?あの子まぁまぁ可愛いじゃん、勿体ねぇ」
「えー?」



午後の専門科目を終え、ようやく楽器を吹けると準備しながら友人たちと談笑中。ふと触れられた話題に、俺は面倒そうに笑顔を作った。
しかもそれって今朝の話じゃん。なんでこう噂ってのは広まるのが早いんさ……。


思わず零れた溜め息と共に、俺は緩慢に口を開く。


「いやー、だってさー。なんか地味じゃん、ビオラって」


その時適当に口にした言葉を、俺はあとから死ぬほど後悔することになる。











「テメェか、ラッパ科のラビってやつは」
「………へ?」


えらい美人さんが恐ろしい顔して近付いてくる。
そう思って眺めていたら、地を這うような声で話し掛けられた。


記憶力だけは半端ない俺の脳ミソをフル回転させるものの、目の前に立ち塞がる寒気がするような目付きの人物に見覚えはない。ただ一言発された声から性別は男なんだろうなと判断して、なんだか妙に落胆した。


ちょうど個人レッスンの順番待ちだった俺は、数人の仲間と校舎と校舎の間の渡り廊下でくつろいでいた。
そんな時の突然の訪問者(しかも見るからにご機嫌よろしくない)に唖然とする俺の背後で、同じトランペット科の友人がこっそりと囁いてくる。


「ラビ知らねぇの?ビオラ科3年の神田。女より女顔で有名……」


友人の台詞はその神田とやらのひと睨みでピタリと止まった。美人が怖い顔すると迫力あるさ。
でもまぁとりあえず、このままただ睨み合ってる(しかも俺の方は理由も解らず)訳にもいかないだろうと改めて俺は彼を見上げた。



「なに?なんか俺に用なんさ?」
「……幸子、知ってんだろ」
「…………サチコ?」



誰だ?と思わず首を傾げると、神田の形のいい眉があからさまにつり上がった。
あ、ヤバイ、なんだか余計怒らせたみたいさ。でも本当に誰だか思い出せない。



「幸子だよ!テメェがつい最近、適当なことしてフッた幸子だ!」
「ああー、ハイハイ!」


……思い出した!つい数時間前も友人たちの話題に登ったビオラ科首席だという女の子だ。
明るくていかにも優等生的な快活な子。そのポジティブテンションのまま俺のことを好き好き煩く言ってくるので、面倒臭くて昨日一回だけ……所謂ホテルに連れ込んだ。
そして全てことが済んだあと、これって付き合うってことだよね?と確認され、冗談じゃないさと突き放してきた。

だってコッチは慈善事業みたいな気持ちだったんさ。むしろ感謝してもらいたいくらい。



「……ああ、何?もしかしてあの子のこと好きだった?だったら全然安心していいさ。俺、あの子に全く興味ないし」
「…………」



……あれ、違ったさ?
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