僕らの可愛い人
□case_R
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妹が1歳のころ、父親が交通事故で死んだ。
今まで一度も涙を見せたことのなかった母親が泣きじゃくる姿を見て、9歳だったオレと12歳だった兄貴は子供ながらにこの小さな妹を兄として父親として守って行こうと固く決めた。
あれから15年。
生まれた時から花も恥じらう程に可愛かった妹は、16歳になってから更に磨きがかかり最近は色気すら出てきたのではないかと感じる。
幼稚園、小・中学校、全ての時期において男の子に人気だったものの当の本人は全く気がついていないらしく、父親代わりであるオレと兄貴が迫る火の粉を片っ端から払っていた。
類稀(たぐいまれ)なる可愛さを手に入れた代償なのか、大切な妹は男運がゼロに等しいようで……火の粉≠ノ対する多少大人げないプレッシャーのかけかたも仕方がなかったと思う。
しかし妹が高校生になり今まで順調だったはずの火の粉払いがうまくいかず、兄貴とオレは頭を悩ませることになる……。
【case1】
「初めての彼氏ができたの! リョウタ君って言うんだよ」
兄弟三人での楽しい夕食の時間、ヒナタのたった一言で一瞬にして周りの空気が凍った。
この場に母親がいれば「良かったじゃない。今度連れていらっしゃいよ」なんて明るい雰囲気になったかもしれないが、あいにく仕事に出ている。
そのため、彼氏ができた宣言≠ノ対して諸手(もろて)をあげて喜ぶ者は一人もいなかった。
ヒナタがリョウタを家に連れてきたのはそれから二週間後──。