僕らの可愛い人

□case_R
5ページ/7ページ

控え室にしては広めの部屋に、スタッフのロッカーと仮眠も取れるようにと大きめのソファ、パソコン等が置いてあった。
ここに来てもまだキョロキョロとせわしなしなくソファに座るリョウタは、目の前のオレンジジュースに手を伸ばす。
童顔もあいまって、その姿は実際の年齢よりもだいぶ幼く見えた。

「それで話ってなんですか?」
「ああ、うん。この間の、君が女の子と歩いてたことなんだけど。彼女とは友達で、付き合ってる訳じゃないんだね?」
「ハイっ。ボクにヒナタちゃんって彼女がいることは知ってるし、それでもいいからデートしよーって言われてイイよーって」

まただ。浮気心については同性として判らなくもない。ただそれを恋人の兄に簡単に言えるほど、全く悪いことだと思っていない所に問題がある。きっとそれが悪いことだと諭したとしても「お兄さんも可愛い子にデートしたいって言われたらしませんか? 何が悪いの?」なんて言われこちらが言葉に詰まってしまうに違いない。これ以上は堂々巡りな気がしてつい重い溜め息が出る。

「ひとつ聞かせて。ヒナタとはなんで付き合ったの?」
「だって、ヒナタちゃん可愛いから」
「……そう。じゃあ、ヒナタより可愛い子から付き合って欲しいって言われたらその子と付き合うの?」
「うーん、どうだろ。付き合っちゃうかもしれないけど、ヒナタちゃんより可愛い女の子なんて見たことないしなぁ」

やはりそういうことかと無償に悲しくなった。ヒナタの男運が悪かっただけ、と気持ちを割り切ることはできない。彼氏ができたと嬉しそうに話すヒナタの顔が浮かんで悲しみはじわりじわりと怒りに変わる。

そんな怒りに気付く様子もなくリョウタはニコリと笑って楽しそうに続けた。

「あ、でも、お兄さんならアリかもしれません」
「……どういうこと?」
「お兄さん、ヒナタちゃんより可愛いから」

無意識にした深呼吸が怒りに震えている。

「それはお得意の好奇心ってやつかな。今の君がヒナタに対してどんな酷いことをしてるか判ってる? 判ってないよね。兄貴の言う通りだよ、思い知らせてやらないといけないね」

目頭を指で押さえつぶやくように吐いた怒りはあまりに小さく、リョウタも「え?」と聞き返した。

「君のオレへの興味、答えてあげるよ」

リョウタがまた聞き返そうとするのも無視して乱暴にソファへと押しつけ少しぶかぶかのカッターシャツを勢いよくたくし上げる。さらに差し込んだ手を細い腰に這わせると、子犬のようだと思った大きな目は更に大きく見開いた。
突然のことに怯えるリョウタに対し、ことさら妖しく微笑んだアオイは目を合わせたまま唇を塞いだ。

「なッ……ン!」

さっきまで開ききっていた瞳がギュっと閉じられ、強ばった身体をくねらせながら全身で抵抗を見せる。息苦しさに眉を歪ませながら酸素を取り込もうとハッと息つぎしたところに、すかさず舌を差し込んでそれを許さない。小さな舌さえも怯えて隠れようとするが、さらに追いかけて弄んだ。

「ん、んン、は」
「ほら、ちゃんと目開けて。可愛いって言ってくれたオレの顔、よく見てよ」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ