僕らの可愛い人

□case_R
4ページ/7ページ

一連のあらましを説明し終えた頃には、キョウスケの額には絵に描いたような青筋が立っていた。

「善くも悪くも好奇心旺盛な年頃だし、いろんなこととかいろんな子に気持ちが向くのもわかるよ。まあただ単に可愛い子が好きな浮気者かもしれないけど」
「…………」
「ヒナタのことも好きっていうより可愛いってだけで付き合ってる可能性もあるだろうね」

しばらく思案していたキョウスケが口を開く。

「……こうなったら」
「こうなったら?」


◆◇◆

閑静な住宅街の一角に、緑が溢れるオシャレなテラスが印象的なカフェがあった。
雑誌に何度か取り上げられていることもあり普段はたくさんの女性客で賑わっているが、すっかり空も暗くなった今は扉に《CLOSE》のプレートがかかっている。
お客だけでなくスタッフもいない静かな店内には、まだわずかに灯りが付いていた。


──カランカラン♪
品の良い鈴の音が来客者を知らせる。

「スミマセンもう閉店で……あ、君か。もうそんな時間だったんだね」

カウンターを拭いていたアオイの前に「こんばんは」と現れたのは学生服姿のリョウタだった。
手には高校名と野球部の文字が書かれた大きなナイロン製のカバンを持っていて、部活が終わってから急いで来たのか額にはまだ汗がにじんでいる。

「ごめんね、呼び出したりして。遠かったでしょ?」
「自転車だとすぐだから大丈夫です!」

まだ若干土で汚れた顔を綻ばせた様子は、小型犬がパタパタと尻尾を振っているようだ。
店内をキョロキョロと見渡しながらも、本日ここに呼び出した理由を聞いてくる。

「ここじゃアレだから奥の休憩室にどうぞ」

そう言って店の扉の鍵をかけ、店内の灯りを完全に消した。





『……こうなったら』
『こうなったら?』
『身体にわからせる』
『は?』
『身体にわからせる。』
『いや、聞こえてるけど。まさか暴力でってことでもなさそうだし、もしかしてソッチ系の話?』
『ヒナタがいながら別の女と並んで歩くなど許せる訳がないだろう。その好奇心とやらが度を超すとどうなるか思い知らせてやれ』
『思い知らせる、ねぇ……ってオレがやんの?!』
『最初にちょっと恐い思いをさせればいい。最終的にお前の腕次第で合意になる』
『いやいや強引すぎるでしょ』
『じゃあ、こう考えろ。お前が感じた将来はヒナタとアイツが付き合っていくことによって起こる可能性が高い。今の時点でそれを阻止するということはアイツにとっても将来の不幸を回避できる方法だとは思わないか?いやきっとそうに違いない。そうだこれは人助けだ。』
『今日はまぁ、いつもより良く喋るねー。無茶苦茶な中にも一理あると思うけどさぁ。そんな上手くいくかな』
『なんだ、お前の今までの女性経験はただ数をこなしただけの役立たずか?』
『……っ!そこまで言われちゃあね。男には全く興味ないんだけどなー。ま、大事な妹のために今回はオレが一肌脱いでみますかね』
『そうしてくれ』
『あ、でも万が一オレが惚れられたらどうすんの?』
『俺の知ったことではない』
『はいはい。絶対そう言うと思ってましたよ……』





「はい、オレンジジュースで良かったかな?」
「はい! どうもです」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ