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□帰還
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都奈の手を取り、優しく手の甲に口付けする。

ツ『ぁ…』

都奈も幾分か落ち着いたようだ。

まだ涙が微かに溜まった瞳で俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。

ア『…大丈夫だ。もう、どこにも行かない。』

目を逸らさず、しっかり見据えて言うと、やっと安心したのか体から力を抜いた。

ツ『良かった…』

嬉しそうに笑う都奈を見て、理性を総動員する。

アイ『…そういえば、時間は大丈夫なのか?今、七時だが。』

ツ『‥ぇ?あ…大変!今日は八時までに支度してないと!』

わたわたと慌てて動き始める都奈。

ツ『アイクも服着て!間に合わなくなっちゃう!』

アイ『ああ…一体、何があるんだ?』

ツ『今日はね、お父さんとお母さんが月一度に来る予定の日で…』

アイ『…何だって‥?』

思わず、動きがピシリと止まった。

ツ『いつも大体、八時半頃には来るから、急がないと‥!』

只今の時刻、七時十分。

アイ『…!!』

それからは怒涛の勢いで着替えを済ませて食事を掻き込み、何とか間に合わせた。

ツ『はぅ…』

アイ『…大丈夫か?』

ツ『うん‥』

疲れたのか、俺の体にもたれかかってくる。

ツ『アイクは凄いね…』

アイ『‥なにがだ?』

ツ『だって、昨日あんなに…』

真っ赤になって口ごもったが、何を言いたいかは分かった。

アイ『戦場を駆け回って来たからな…嫌でも体力はつく。』

半年前までの事を思い出す。

ツ『どんな戦いだったの…?』

アイ『話せば長くなるが…良いのか?』

ツ『‥うん。』

こちらを熱心に見つめてくる都奈に根負けし、長い追憶を始めた。

クリミアとデイン、ベクニオンの事、ラグズとベオクの関係、傭兵団の事…

敢えて親父の事は話さなかった。

ツ『そう、なんだ…』

アイ『…日番谷さんは親父に似てるんだ。』

顔立ちは全く違うが、纏っている雰囲気や仕草が驚く程似ていて。

ツ『お父さんが、アイクのお父様に?』

アイ『ああ…』
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