ちとくら
□いつもの
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「ちーとー……」
「え、何ね?」
ふと千歳の名前を呼ぼうとして、だけど最後まで言わず、包帯の巻かれた左手を顎に当てて思案顔の白石。
千歳、って。名前っぽくて違和感なかったけれど、苗字なんだよなと考えるとどこか他人行儀な気がして。
「…千里?」
スッと目線だけを上げて、こちらを伺い見る相手の名前を口にしてみた。
一瞬ぽかんとした千歳が急に顔を赤くして、大きな体を揺らしてしどろもどろに返す。
「ど、ど、どげんしたと白石…!」
「んー…」
思案顔のままスタスタと千歳に近づき、ぎゅっと抱きしめる。
千歳はわけがわからず目を回し、言葉にならない声を出し続けている。
ふいに白石が顔を上げて、千歳の目をじっと見つめて言った。
「なぁ、やっぱり恋人って下の名前で呼ぶもん?」
恋人、という言葉にどきっとして、わけもなく白石を見つめ返す。
愛しい人の眉根を寄せた可愛らしい顔に、千歳もぎゅっと抱きしめ返した。
「別によかよ、俺も白石んこつ苗字呼びったい」
「あーうーん…そうなんやけど…」
なんとも煮え切らない様子の白石。
小さく苦笑して、本当に可愛い人だ、と千歳は思う。
白く綺麗な頬に口づけ、いつもの笑顔で言った。
「俺はいつもの白石ば好いとうばい。無理せんでよか」
白石は一瞬目を見開いて、それから満面の笑み。
返事は、お返しのキスで。