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□はぐれない方法
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はぐれない方法

人がごった返す道を進むのは容易なことじゃなかった。

左右どちらを見ても人。
あまりに人が多くて前もよく見えない。

「黒子、平気か?」

「はい。…なんとか大丈夫です」

火神くんが時おり自分を気づかう言葉をかけてくれる。

それに平気ですよと答えると、火神くんがなら良かったと安心した表情に和らぐ。
火神くんのそんな表情にいちいち心臓が煩いです。そうとう重症ですね、

正直、これだけ人の多い道を歩くのは大丈夫とは言ったもののとても大変です。

持ち前の影の薄さからか、さっきからやたらと人にぶつかる。…痛いです。

今歩いて目指している場所は神社の境内。ずいぶんと奥の方にあるそこで、花火が行われるらしい。

一緒に花火を見よう、となって道いっぱいに広がる屋台を楽しみつつ目的地へ向かうことにした。

「黒子、やきそば食うか?」

「じゃあ一口だけいいですか?」

「ん。ほら口あけろ」

「…はい」

歩き始めてから火神くんは食べ物の屋台ばかり立ち寄っている。

たこ焼き、焼き鳥、唐揚げ、イカ焼き、フランクフルト、ポテト、たこせん…

どこにそんなに入るんでしょうか…不思議です。
それを必ず僕に味見させてくれる火神くん。
所謂はい、あーんな食べさせ方で…恥ずかしいけど嬉しいのは秘密です。

「うまいか?」

「はい。焼きそば美味しいですね」

「うまいよなー、ソースは特に。黒子は、食いたいもんあるか?」

「そうですね…、ならりんご飴食べたいです」

さっきから食べるものは塩味のものばかりだったので、少し甘いものが欲しくなった。

すっと、焼きそばの屋台の少し先に並ぶりんご飴の屋台を指差した。

「じゃあ、行くか」

「はい、火神くん。」

ほんのちょっとの距離なのに人混みのおかげで少ししか進めない。困りました。

「黒子、はぐれるなよ」

「大丈夫で…」

言い終わる前に…やってしまった。

10人以上のグループがただでさえ多い人の波を無理に進むものだから、僕はあっというまに人波に流されてしまった。

一瞬人の波からた火神くんが焦っているのが見えた。
火神くんが手をのばして、その手は僕が掴む直前で人混みで紛れてしまった。


さっきの屋台からかなり離れて、やっと少し空いた場所に出られた。

「…どうしましょう」

人波に外れた場所にぽつりと一人きり。
またあの波にのるのは…きっと無理ですね。…困りました

そんなことを考えながらとにかくじっとしていた。

すると、目端によく見慣れた赤を捕らえた。
そんなはず…何かの間違いでしょうか。

もう一度、よく見てみると確かに火神くん。
急いだ様子で此方へむかって、僕が走り出すより早く火神くんが来てくれた。

「黒子!大丈夫か?」

「火神くん…あ、はい。大丈夫です」

大丈夫。と答えるや否や良かったと火神くんが本気で安堵した表情になった。
ずいぶん心配をかけてしまったらしい。

「すみません、はぐれてしまって…でもどうしてですか?」

「気にすんなって。どうしてって何がだよ?」

「僕、影もうすいのにどうしてすぐ見つけてくれたんですか?」

不思議でした。この進むのすらつらい人混みのなかで、普段ですら見つけるのも困難な影のうすさの僕を見つけてくれたのか。

「お、お前なら別にすぐに見つけられるよ。それにお前ゆかただから今日は分かる。」

「…え?」

「あーもー、言わせんなよ!今日もう言ったけど黒子が綺麗だから分かるってんだよ!」

心拍数が自分でよく分かるくらいに早くなった。
予想の斜め上をいく回答に自然と顔に熱があつまる。
そのまますこし上を向き、ありがとうございますと精一杯微笑んだ。

照れ隠しか、火神くんも頭をかきながら目をそらす。

…火神くんがやっぱり大好きです。と恥ずかしいから言えないけど心の中で思った。

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