Mr.Wonder

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「あ…ぁ…っ…悠汰…」

「久しぶりだな、えりな」


こげ茶の少しパーマかかった髪、鋭い目、長身…。

私は、自由じゃなかった。

幼馴染の、悠汰は、私を手離すわけなかった。

私の初めてを全てあげた人。

悠汰は座り込んでる私に向かって笑顔で手を差し伸べる。手を取れば、私はここに来る前の私に戻ってしまう。そんな気がして手を取らずにいた。

どうしてここにいるの、空港に、どうして私がいるって知ってるの…!


「知りたいか?」

「っ!!」


知りたい。

何で私がここに来たのか

何で悠汰がここにいるのか

悠汰の狙いは何なのか

知りたいことなんて、沢山ある。



「今俺の手を取って、俺の元へ帰ってくれば…全部教えてやる」


でも…


「…嫌よ、私は…やらなきゃいけないことがまだ残ってる…」

「やらなきゃ、いけねぇこと…?」

「それをアンタに教える必要なんてない」


そうだ。キセキのみんなをまずは無事に中学を卒業させて、高校ではみんなを原作通りに…

そして、私は修造に全部を伝えなきゃいけない。

だから…!!


「……そのやらなきゃいけねえことが俺が仕組んだからこそ決意したものであってもか?」

「え……」


手が伸びてくる。

ぶくぶくと、深海に落ちてく感覚がある。

身体を鎖で縛られていく感覚がある。

私は、こいつから逃げられない。






「悪ぃけど、今からコイツとデートなんだよ。出直せ」





座り込んでいる私の腕を引っ張って抱きしめてくれる、暖かくて大きな人。


「ショー、ゴ…くん…?」

「…ったく、隙見せるとかお前らしくねぇんだよ」


パチンとデコピンしたら笑ってくれるショーゴくんを見て救われた気がした。


「灰崎祥吾か……」


悠汰は黒バス読んでないのに、どうしてショーゴくんのこと知ってるんだろう。本当に何を企んでいるの…?

わからなさすぎて、怖い。

一瞬だけショーゴくんを睨んだけどすぐにニコッと笑えば「いつもコイツが世話になってるな、これからも仲良くしてやってくれよ」なんて言った。


「もういいでしょ…行こう、ショーゴくん」

「おー」


ショーゴくんの手を取って悠汰の横をすり抜ける。その時言われた言葉に、反論できずにいた。

きっと、これから先ずっと反論できないと思う。




「…お前は、俺なしじゃ生きられない」




そして、アイツは私なしじゃ生きられない。




「ショーゴくん何で空港にいたの?修造の見送り?」

「まぁそれもあったけど…8割くれーはえりなを迎えに」

「私を?」

「体育祭の時言われたんだよ、『俺がアメリカに行ってる間、えりなを守ってくれ』って。さっきの野郎って例の幼馴染だろ。虹村サン、アイツがえりなの秘密に関係してるんじゃねーかって睨んでた。正解だったな。俺も最初は何言ってんだって思ってたけどさっきのえりなの様子を見てたらただ事じゃなさそうだったし、キセキにも黒子にも桃井にもついでに俺にもえりなは必要なんだわ。だからアイツからえりなを守る。親父から俺を守ってくれたみたいに。」


修造がそんなことを…。修造ってばどこまで考えてたんだろう。幼馴染が関係してるなんて考えもしなかった。次元が違うって言うのに…。

それより、ショーゴくんがこんなにも私を必要としてくれているなんて…嬉しくて泣きそうになって、仕方なかった。アイツ相手じゃ確かに1人では無理だと思う。でも、ショーゴくんたちが一緒にいてくれて庇ってくれるならきっと大丈夫。


「…ありがとう」

「おう。で、アイツの狙いとかわかんのか?」

「…わからない。どうせキセキの世代と戦いたいとかそんなんだよ」

「は?適うのかよ」

「……知らない、」

「知らないって…」

「今この時点でキセキより弱かったとしても、成長して抜くとかそんなんじゃない?アイツのこと、幼馴染の私でもよくわからないの。多分…」

「多分?」

「……いや、憶測でしかないからやめとく」

「そうか。まぁ、知ってたとしても、一番に話すのは虹村サンにしとけって話だよなー」

「……」


悠汰は、キセキの誰にも似てない、天才。

誰も近寄せたがらない。

私にすらも本当の自分を見せることはなかったと思う。

だから、よくわからない。


「まァいいや」

「?」

「…虹村サンいねぇんだし、自由にえりなのこと連れ出せるってことだよな」

「は?」

「俺の家来いよ、久々に俺の手料理ごちそうしてやる。それにえりなが会いたがってた兄貴今日いるぞ」

「まじで?!会いたい!泊まる!!」

「おー来いよ。じゃあ着替えとか取りにえりなの家行くか」

「うん!パスタ食べたい!」

「リクエスト聞いてねぇ」

「え?!」

「嘘だよ、その後は兄貴入れてジェンガとかしよーぜ」

「そこはバイオしよ!!」

「2pでか」

「そうそう」

「俺クリス」

「じゃあピアくんね」

「おー」




私は、今の方が楽しいから

今の方が幸せだから

アイツのとこにも

元の世界にも

帰りたくない。






灰色の決意
(虹村サンがいない間)
(お前の笑顔を守るのは俺だアイツじゃねぇ)




悠汰くんは強いかもしれない。



愛菜
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