Mr.Wonder

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それは突然だった。


「バスケ部に入れてくれないッスか?!」


そう涼太が言いに来たのは。
入部届がないとバスケ部には入れないし、何より憧れてる大輝とプレイするのはもっと後の話だ、まず1軍に入らなければどうにも出来ない。だから予め用意しておいた入部届を涼太に渡して今日のところは帰って貰った。


「えりなの言う通りになったな」

「私を予言者みたいに言わないでください」

「そうは言ってねぇだろ」


にじむーは涼太の入部になんとも思ってなさそう。というよりキセキたちに自分たちのスタメンが奪われるのがもうすぐなのだと気付いているのか最近部活中は少し辛そうだ。


「オラ、青峰練習やんぞー」

「うぃーっす」


後、やたら大輝と1on1になるようにしているようにも見える。何を狙っているのかはわからない、けど、焦りは少しだけだけど、私には見えていた。

そういえばさっき、1軍の人とにじむーはキセキの世代の話とテツくんがスタメン入りするって話をしていた。

テツくんがスタメン入りをするのはきっと今日なのだろう、そしてにじむーたち3年がスタメン落ちするのも今日だ。

それは前からわかっていたことだから、いいが。よくないけど、いやだけど。それより、キセキの世代、と名付けたのは征ちゃんなのだと、風の噂で聞いた。

その真意は私にはわからない。でもただ1つだけ言えることがある。それは征ちゃんのことだから奇跡と軌跡をかけた、なんていう簡単な話ではないという事。きせき、なんて読める熟語はたくさんある。奇跡、軌跡、それに奇蹟なんて言う言葉まである。征ちゃんのことだ、いろんな意味を含めてキセキと名付けたのだろう。発音が奇跡でない時点でわかりきっていることだけど。


「えりなちゃん、考え事?」

「さつきちゃん…ちょっとね」

「……えりなちゃんって、ジュリエットなの?」

「…は…?」

「あ、いや…赤司くんがね、えりなちゃんを見て、“えりなはロミオとジュリエットのジュリエットのようだな”って言っていたんだ」

「……また、意味の分からない事を言うね。征ちゃんは」

「あはは、赤司くんはえりなちゃんがある日突然消えそうな儚さを持っているからジュリエットなんだって。…まぁ、たぶん他に意味あるんだろうけどね」


ジュリエット、か。
征ちゃんから見た私って、ジュリエットなんだ。


「えりな」

「!に、じむー?」

「驚きすぎだろ」


後ろから抱き付いて来たのは珍しく、にじむーだった。いつもはむっくんなのに。


「ミーティング、始まんぞ」

「うん、わかった。」


一回わしゃわしゃと頭を撫でればすぅっと離れて、監督の元へと行ってしまう。


「最近、虹村主将なんか変じゃない?」

「うん…」

「どうしたんだろう…」

「………さぁ」


にじむーだって、怖いんだよね。
2年にスタメンとられて、普通でいられる人なんてそうそういないし。


「黒子テツヤ。次から正式にベンチ入りしてもらう。背番号は15。6人目としての活躍を期待している。後で桃井か夢咲にサイズを伝えておけ」


テツくんのスタメン入り。
大輝が喜び、征ちゃんが祝って、真ちゃんもむっくんも認める。けれど、私の口は動かなかった。

だって…


「それともう一つ。今までスタメンは現2•3年をローテーションで使ってきたが今後は、赤司たち現1年生を中心に使っていく。以上だ、解散!」


にじむーたちがスタメン落ち、するから。


「に、じむー…」

「虹村…」

「わかってたことだ。驚きゃしねえよ。あいつらが入って来た日から、遅かれ早かれこうなることを覚悟してた。その日が今日だっただけの話さ。そんでこの先どうすべきかもな。…だから、えりながそんな泣きそうな顔する必要なんてねぇんだよ!今は、黒子のスタメン入りを喜んでやれ!」


な?と言って私の頭を撫でる手は、微かに震えていて。私はそれに気付いているのに、何かしてやれることなんて何もないし…気付いてないフリをするのが男としてのプライドを傷つけない唯一の方法かもしれないと思い、そっとその場を離れテツくんの元へと向かった。


「テツくん」

「?なんですか、えりなちゃん」

「…おめでとう」

「ありがとうございます」


これだから、嫌なんだ。
これだから、競争率の高い運動部に関わりたくなかったんだ。

やっと出て来た、おめでとうという言葉。もっと言いたいことなんてある、口先だけになってしまっても言わなければならない言葉があるのに、私はこれだけしか言えなかった。

こんな部活、誰が幸せになれるの?

それってただの自己満足じゃないの?

どうしてこんな環境なのに、チームプレイって存在するの?

ねぇ、教えて。

この漫画の救いは、チームプレイであるバスケがメインだったこと。個人技主体の桐皇はまぁ…仕方ないとして。

でもこのまま、進んで行って、もし誰かに「チームプレイって必要なのか」と聞かれても、私は答えられる自信がない。

バスケをやれば、わかるのかな、なんて。


「えりな。キミはやはり、ジュリエットのようだね」

「……征ちゃん、それは違うよ」

「ほう?」

「私は、ハムレットのオフィーリアなの」

「……悲劇、ハムレット」

「何を言ってるの、私がいて悲劇なわけない。喜劇で始って喜劇で終わるんだよ」

「それは、楽しみだ」



ねぇ、征ちゃん。

あなたは今、何を思っているの?




黄色の入部と虹色の想い
(私も、ある種の天才かもしれない)
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