Type A

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「どう、なったの…?」

「知る必要あるか?」

「そうそう、知らない方がいいってこともあると思うよ!」


伊月さんが私に見えないようにしてくれていたおかげで、グロテスクすぎるところは見ずにすんだ。

音だけは聞こえていたの。

もう一度何かが潰れた音だ。生きた人体模型がいないってことはそういうことなんだろう。


「伊月さん、ありがとうございました」

「どういたしまして」


伊月さんの上から退くと、優しく頭を撫でて「よく頑張ったな」と言ってくれる。その言葉に安心して笑みがこぼれた。

マコちゃんの作戦通り、2人とも倒せてよかった。あんなのからずっと逃げ回れなかった。


「って…マコちゃんいなくない?」

「確かに」


作戦をたてたのはマコちゃんだったけれど、マコちゃんは作戦には参加していなかったと思う。マコちゃんのことだからどこかで暗躍してると思っていたけれど、まさか逃げたとかないよね?


「まさか、そんなね?マコちゃんだけ隠れてるとか、ね?」

「ねぇよ」

「痛い!」


マコちゃんに限ってそんなことはないだろうと思ってはいたが、本当にどこに消えたの?!って1人焦っていると後ろから本の角のようなもので殴られた。

慌てて振り向くと、びっくりするほど無表情なマコちゃん。そのマコちゃんの手には本当に本があった。


「なに、その本」

「黒魔術の本だ。図書室で探してきた」

「やっぱり厨二病だったんだね」

「殺すぞ」


なんで黒魔術の本なんて持っているのかわからなくて、厨二病だったのかと言えばもう一度本の角で殴られてしまった。殴られた頭を撫でながら、本を持ってるってことは、ずっと図書室で探し物をしていたのだろうかと考える。

というか、そんなに殴らなくてもいいよね?


「図工室で日記を見つけた。お前達が走り回ったおかげでこっちは楽だったぜ」

「私たちをよほど信じてるんだね」

「ヘマするような難しいことは言ったつもりねぇからな」


私たちが2人に勝つと信じて日記を探していてくれた。信じていなかったらできないことだ。私たちが暴れているおかげで1番厄介だった生きた人体模型と大男に目をつけられずに探し物が出来たってわけだね。


「話戻るけど、なんで黒魔術の本なんて持ってるの?」

「なんかヒントになりそうなこと書いてるかと思ってとりあえず持ってきただけだ」

「ヒント?」

「異世界を作るのに条件が必要だったのは推測出来る。だけどそれだけで異世界を構築できるのなら、俺たちにも簡単にできるだろ。」

「俺たちには異世界は作れないよねー」

「じゃあ、他にも何かがあるはずだ。俺は何かを犠牲にしたんじゃねぇかって思ってる。例えば、記憶だ」

「記憶?」

「ああ、犯人のうち2人は高尾と黄瀬を狙ってる。2人とも身に覚えがなさそうだったとえりなは言ってたな」

「うん」

「あくまで想像の範囲内だが、自分との一切の記憶と引き換えだったらどうだ?」


確かに何か大きなものを失ったのであれば、異世界を構築することも可能なのかもしれない。記憶を失っているのなら2人がなぜ狙われているのかわからないのも無理はない。

この想像であればなんの矛盾もない。


「記憶を犠牲にして何かを創造する方法、みたいなのはその本に載ってたの?」

「いや、小学校の本だからな。ここに向かいながら読んだが、特に何も」

「そうだよね」


小学校の図書室に生々しいもの置いてあったら嫌だよ。異世界といっても子供に見合ったものが置かれているようで安心する。本を持って歩くのは邪魔だといって、教室の中にあったゴミ箱の中に本を捨てる。


「とりあえず見つけたっていう日記を読もうぜ。異世界の構築を話し合っても意味ねぇだろ」

「そうだね、私が読みます」


マコちゃんが見つけたという、綺麗な字で書かれた紙切れを受け取る。これで何かわかればいいのだけれど。




6月10日
今日は体育祭だった。黄色の彼は100m走300m走、800mリレーに出場していた。足が速いとこういうのにしか出させてもらえないのってやだねというと、「中学の頃からこういうのばっかだけどこれはこれで楽しい」と言っていた。本当に素敵な人だと思う。…けど幼馴染だという女の子の元に行ってしまってから、彼とは話せなかった。寂しい。あの子も確か帝光だ。名前はど忘れしてしまったけれど。確か…(名前であろう部分が消されている)の学校に進学したはず…





「幼馴染…?」

「黄瀬に幼馴染の女の子か…」


聞いたことがないという伊月さん。確かにモデルをやっていて仲のいい幼馴染がいたら噂になって広まりそうだし、女の子の元に行って話せなかったって位だから相当仲がいいだろう。それならば試合にも観に行ってそうだ。帝光中ということもある…他のメンバーとも仲がいい可能性は否定出来ない。


「黄瀬たちの記憶が消えてるって想像、あながち間違ってねぇかもな」


…ならば、私の偽物が見たという緑間くんと黄瀬くんと歩いていた女の子って、この子のことなんだろうか?名前が消されているがこれは私の偽物の名前?

福井さんの言うとおり、幼馴染のことを忘れるなんてありえないんだからこの日記が嘘ではない限り、涼太くんたちの記憶は改ざんされていることになる。






『それで、だ、だいたい…あってます…!』





───また私の声が響いた。




「え?!ちょ、またキミぃ?!」

「…よく出て来るなお前」


いや、何かが違う。

私の前にいるコタちゃんの後ろから声が聞こえた。コタちゃんは理科室を背に立っているけれど、理科室から誰かが出てきたのを見ていない。

顔は私と全く同じだが、おどおどしている。このえりなが一体誰なのか、今は判断がつかないけれどただの人間じゃないことだけはわかった。

福井さんなんて私がまた現れてキレそうなんだけど、私が嫌いみたいだから、やめてください、ショック受けます。


「何の用だ……」

『あ、あの…えっと…ご、ごめんなさい!』


そう泣きそうな声で謝ると、パチンと指を鳴らす。私の身には何も起こらなかったからなんだったの?と首を傾げたが、コタちゃん、伊月さん、福井さんがバタリと倒れてしまった。


「しっかりして!みんな…!…アンタ、何をしたの?!」

『ひっ…さ、3人には眠って貰いました…!』

「はぁ?!」


何を言ってるんだ、この状況で綺麗な言葉を使ってビクビクしていれば信じて貰えるとでも思ってるの…?!眠ってもらった?なんでそんなことをする必要があったというの。

私の姿をしたやつに敵対心を向けることしかできない。


「えりな落ち着けよ」

「あ、え…うん。マコちゃんは平気なんだ?」

『は、花宮…先輩は…ご存知のよ、うだったから…』

「え…?」


花宮…先輩?


『えりなには、みんなを混乱させたくないっていう優しい気持ちを…貫いて欲しかったんです。だから、聞かせたくなくて眠っていただきました。』

「それで?」


この子が何者なのかはともかく、私が3次元にいる存在だと知っているようなのに本当に危害を加えるようには見えなくて少し力が抜ける。

でも、次の一言でまた私は疲れるのだった。







『わ、私は…所謂2次元の方に住んでる…夢咲えりなです…!』





あっちの世界の私
(ごめん、意味がわからない)
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