Type A

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ドォン!!という大きな爆発音が聞こえる。おそらく、体育館周辺が吹き飛んだ音だろう。養護学級ひまわりにまで砂埃が入ってきて、前がよく見えてない。

その砂埃の奥にはみんなを焼き尽くした炎が見えている。


「っ……い、や…!!」


記憶を取り戻したせいで、あの日の恐怖まで思い出してしまう。みんなの叫び声、私に伸びる炎、校舎が崩れ落ちる音が脳裏にこびりついて離れない。

怖くて怖くて、足が前に出なかった。


「ぬいぐるみは涼太が持て!!走り抜ける!!」


赤司くんの声を合図にみんなが走り出す。それなのに私は養護学級ひまわりにとらわれて、動けずにいた。

怖い、違う、諦め…?

そう、私はあのとき死んでしまった方が楽だったんだ。そしたらみんなを巻き込まずに済んだし、長い間苦しまなくたってよかった。そう思うと余計に身体なんて動いてくれない。


『あ゙ぁあ゙あ゙!!いや、ぁあ゙!!!』

『たす、げッ…あ゙!!』


死にたくない、生きていたい、助けてくれという声が聞こえる。助けたい、出来ることならみんなを助けたかった。あの日も、今も、私は逃げ出すことさえ出来ない。

高尾くんたちのことだって、助けられないかもしれない。


「えりなちゃん!!!」

「た、かおくん…」


中々走り出さない私の手を取って、先頭から少し遅れて走り出す。私を絡め取って離してくれない真っ黒な過去から、連れ出してくれるかのようだった。私たちの後にも続いて養護学級ひまわりから脱出しようとした時だった。


「ぅ、ああ゙あ゙あ!!」

「あ゙っ…!」

「うあああ?!」


2回目の爆発が起こってしまった。私のすぐ後ろで爆発が起こったからすぐに振り向くと、そこは真っ赤な炎と黒い煙でいっぱいになっていた。

かすかに見える爆発に耐えた壁には誰のかわからない血が見える。


「い、やぁあ゙あ゙!!!」

「えりなちゃん!!大丈夫だから!」

「誰が巻き込まれた!」


火神くん、笠松さん、コタちゃん…他にも、森山さん、日向さんも爆発に巻き込まれてしまったようで、みんなが名前を呼ぶ。けれど、返事が返ってくることはなかった。

あの日を思い出す。

逃げても、逃げても、炎は私を逃すまいと追ってきていた。


「走れ!!!!」

「たか、おくん…!!」

「何立ち止まってんだよバァカ!こんな予想出来ただろうが!!500人以上が死んだ爆発だぞ…!!」

「そうだけど…!」

「しっかりしろ!!ぬいぐるみを依り代に渡せなければ全員死ぬんだぞ!」


赤司くんに怒鳴られて、高尾くんに手を引っ張られて、それでも足は思うように動いてはくれない。

───お前もここで死ね。

そう言われてるかのような気がした。


「えりなっち!行って!!」


ポイっと投げられたぬいぐるみをキャッチする。そのぬいぐるみは涼太くんが持っていくようにといわれたものだ。どうして、涼太くん?

涼太くんの方をみるととても優しい顔をしていた。そして、私を信じてるって言いたげな顔をしてると思う。


「ここで先輩たち見てる。えりなっちがそれ届けてくれるの信じてるッスから!それに、まだ先輩たち死んでねぇッスよ…?」

「っ…そ、んな涼太くn───」


ガラッと頭上から崩れ落ちてくる音が聞こえて、上を見上げる。本館、ひまわり、体育館に繋がる渡り廊下は屋根が付いている。その屋根が爆発によって崩れそうになっていた。


「行け!!」

「涼太くん!!」


そう涼太くんが叫んだ瞬間、渡り廊下の天井が涼太くんと私の間に落ちた。みんなの姿は見えなくなって、高尾くんとマコちゃんに腕を引かれてまた走り出す。

がたがたと口が震えて、足がもつれてしまいそうだ。

保健室の隣が校長室だというのに、とてもとても遠く感じる。


「うわっ…!!」

「あ゙っ…!!」


走っている時も後ろからみんなの叫び声と爆発音が聞こえる。連続的に爆発をしているようで、誰が巻き込まれてしまったのかさえわからない。


「えりな!」

「あ、かしくん…!」

「こんなことじゃあいつらは死なないよ、だからそれを届けることだけを考えるんだ」

「でもっ…!!」

「えりなちゃん、私たちのこと…信じて、ね」

「レオ、姉…」


みんなは私のことを信じてくれた。だったら私も信じなくちゃいけない。それはわかってるはずなのに、どうしても涙が止まらない。


「えりなちゃん…!!」

「っ?!」


ドン、とレオ姉に前へ突き飛ばされて高尾くんに抱きとめられる。その瞬間、レオ姉は崩れてきた天井の下敷きになってしまった。


「レオ姉ぇ…っ!!」

「玲央…」


瓦礫に埋れたレオ姉の姿は腕しか見えなくて、そこから血が沢山流れ出ていた。その腕はピクリとも動いてはくれない。

嫌だ、レオ姉…嫌だ…バスケ出来なくなるよ…そんな腕から血を流してさ…


「行こう、えりな」

「レオ姉っ…レオ姉がっ…!!」

「えりなっ…!!」


嫌だ、こんなレオ姉を置いていけない!!もういやだ!と泣き叫んでいたら、前方の壁が吹き飛んだ音が聞こえた。まだそっちまでは爆発の被害は及んでいない。それなのに、なぜ?と思って砂埃が舞う向こうに目を凝らした。


「あれは…!!」

「嘘だろ?!」


校長室の隣の部屋、倉庫として使われている教室の壁を突き破って現れたのは、作業着を着ていて手には斧を持った大男だった。Bの異世界では倒したけれど、こっちでは倒してないと聞いている。だからって、今現れなくてもいいじゃない!


「は……?」

「…む、っくん……?」


目にも留まらぬ速さで、私の右隣を何かが通った。斜め後ろにいたむっくんが声をあげるから何事かと思って振り向くと、むっくんの右脇がぽっかりと抉れてなくなっていた。ぴゅーっと、血が吹き出している。


「意味、わかん、ねーし…」

「むっくん!!!!!」


むっくんがその場に倒れてしまって、駆け寄る。傷口を抑えていたら、すぐ隣にべっとりと血がついた斧が転がっているのを見つけた。これって、生きた人体模型がもっていたのと同じもの…?

むっくんは今すぐにでも死んでしまいそうなほど弱ってしまっていた。医療の知識はないけれど、身体の一部を失って生きてるなんて普通じゃありえない。それくらいはわかる。


「赤司、俺たちも時間稼ぎするぞ」

「わかってる」

「来い!!」


何をするつもりなのかわからないけど、動かない私を高尾くんとマコちゃんが無理矢理腕を引っ張って走り出すと、校長室の中へと飛び込む。

大男もこっちに向かって走ってきてはいたから、マコちゃんと赤司くんがトロフィーが飾られている大きな棚をドアの前に置いて簡単には開けられないようにしてくれた。


『あ゙あ゙っあ゙あ゙あ゙!!!』


ドンドンドン!と大男がドアを突き破ろうと体当たりをしているのがわかり、マコちゃんと赤司くんが背中で棚が倒れないように支えてくれていた。


「早く和室を探せ!!長くはもたねぇぞ!」

「中に入られたら終わりだからね」

「わかった。えりなちゃん、紫原も黄瀬も他のみんなも全部終われば元に戻る。だから、あと少しだけ頑張ってくれ!」

「っ……うん!!」


きっと私を落ち着かせるためについた嘘だ。そんなこと誰にもわかりはしない、けれどそれを信じるしかないんだ。みんなが私を守ってくれている、背中を押してくれている。なら、私はまだ死んでいられない。

もうマコちゃんと赤司くん、高尾くんに私しか残っていない。みんなを助けるために私はこれまで頑張ってきたんだ!それを無駄にしないためにも絶対に和室への入り口を見つけてやる!


「和室はどこだ…!!」

「わかんない!」


和室への扉を急いで探す。カーペットを剥がし、机をどかし…それでも見つからない。そんなことがあるの?校長室は1つの大きな社長机と2つのトロフィーを飾る棚、来客用のテーブルとソファー。それだけが並ぶいたって普通の校長室だ。

こんな部屋のどこに和室なんて!


「早くしろ!!!!」

「そんなこと言ったって!!」


どこにあるの?茶道をするために作った部屋であるならば、簡単に行き来出来る場所じゃなきゃいけないはずでしょ?それこそ壁掛けのカレンダーの下とかが怪しい。なのに、なにもない!白いだけのなんともない壁しかない!


「まずい、っ」


バンバン!と叩く音が聞こえる。窓ガラスが割れる音まで聞こえてきていた。さっき投げた斧を持ってきてドアを殴っているんだろう。さっきよりも押さえつけてくれている2人の身体が棚と一緒に大きく揺れ動く。額には汗が流れてきていて、眉も辛そうにしわを寄せていた。


「うっ…!!」

「く、そ…!!」


ドン!!!破裂音のような音がする。慌てて振り向くと、赤司くんとマコちゃんがガラス張りのトロフィーを飾っていた棚とドアの下敷きになってしまっていた。ドアを大男に突き破られてしまったようだ。ガラスの破片が刺さっているのか血が流れてきている。


「い゙でっ…」

「ぐ…っ」

「マコちゃん!!赤司くん!!」


大男は校長室の中に入ろうとして、倒れている棚の上にのぼる。突き刺さっているガラスとかが大男の重みによって深いところへ入り込んでしまっているのか2人とも痛そうに悲鳴をあげた。

はやく、和室を見つけなきゃ!


『ぅおあ゙あ゙あ゙!!!』

「えりなちゃん!本棚を倒そう、下敷きにするんだ!」

「え?!」


大男は雄叫びをあげてこちらへ足を進め、私の方へ手を伸ばした。捕まったら終わりだと思って、後ろに下がり校長先生の机の隣にあった本棚を高尾くんと一緒に倒そうと棚を引っ張る。


「このぉ…っ!!!」

『あ゙ぁがぁあ!!!』


火事場の馬鹿力というのは本当にあるようで、大きな本棚を2人で倒すとうまいこと大男が下敷きになってくれた。でもそれでも軽い足止めにしかなってないはずだ。下敷きになった大男は脱出しようと体制を整えている。

少しだけ時間稼ぎをすることが出来るかもしれないけれど、こんなんじゃ…


「えりなっ…そ、こ…」


マコちゃんがゆっくりと一点を指差す。そこには、私が咄嗟に倒した本棚の後ろにあった小さな扉だった。本棚を足場にすれば手が届くような位置にある。小さいと言っても、人が普通には入れそうなくらいの大きさだ。


「あれが…!」

「えりなちゃん、はやく!」

「うん!!」


高尾くんと手を繋いで本棚の上に登って、そして扉を開けた。そこは天井も低く、3畳ほどしかない小さな小さな和室だった。茶道を楽しむための和室というだけあって掛け軸や、茶道に使う道具一式もそこにある。


「……ゆ、か…」


和室の中には白骨化した遺体がそこにあって、これがゆかなんだとわかり、2人で中にはいり、大男が入ってこられないように扉をしめた。扉は小さいし、私たちは入れたとしても、大男は入ってこられない。それこそ壁を破壊しない限りは。


「これで終わりか…」

「……私、みんなを助けられるのかな」

「みんな助かる。えりなちゃんが諦めなかったお陰でな。」

「っ…やっと、私はあの日から歩き出せるんだね」

「ああ、今と昔じゃ違う。えりなちゃんはえりなちゃんの力でここまで来れた。もうあの頃とは何もかもが変わったんだ」

「うん、ありがとう」


不思議と遠くの方で爆発する音が聞こえる気がした。もう巻き込まれないという自信があるからなのだろうか。

たぶんそうだ、安心したらなんだか眠くなってきたもの。


「……帰ろう、元の世界に」

「えりなちゃんとはずっと…一緒だよな」

「待ってるよ」


あんまりその話はしたくなくて、すぐにお母さんに唯一買ってもらったというぬいぐるみをゆかの手元に返してあげる。

パァアアアと遺体が光って元のゆかの姿に戻っていくのがわかった。その顔はとっても穏やかで幸せそうだ。






『ありがとう』




最後の戦い
(そこから覚えていない)




「酷い女でごめんなさい、わざとじゃないのよ」






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