Type A
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「…私は本気よ、それが嫌なら私を殺しに来なさい…!」
グッと首に鋏を当てる、血が流れていくのがわかる。普通なら痛いのだろうけど、今は何も感じなかった。
不思議と落ち着いていられる。どうしてだろう?これが最後だからかな?ううん、きっとみんなに勇気をもらったからだね。何も怖くない。
『サセなイ…!』
「……なんだ、ここに入って来られるのね?」
『っ』
こんな安い挑発に乗ってくれてありがと、三条ゆか。
私の目の前に、三条ゆかは現れてくれた。でも、殺しに来ない。確信が持てた、これで帰れる。みんなを元の世界に帰してあげられる…。そう思うと安心することが出来た。みんなを帰すことが出来たなら私の役目は終わる。みんなと一緒に帰ることは出来ないけれど、本当のあり方なのだからそれで構わない。
ゆかはここには入れないはずだった。でも、挑発すればすぐに現れてくれる。そんな設定&K要なくなっちゃったもんね。
「マコちゃん…」
「あぁ」
マコちゃんも自分の答えに確信が持てたのか自信に満ちた顔をしている。
いつも負担ばかりかけてしまってごめんね。そんなこと言ったら「バァカ」といつものように言うんでしょうね。私はそんなマコちゃんに救われていた。
だから、最後までマコちゃんが信じた私でいるよ。
私はもう一度力を入れなおして、ハサミを首にあてる。
「…自殺なんて、許すわけないよね?そりゃそうだよ、貴方は自分の頭脳が如何に優れているのかを証明したいんだからね。だから、自殺ではダメ、他殺でもダメ、この学校で殺したいのよ、違う?」
「可笑しいんだよ、なんでこの学校は事件が起こる前の姿をしているのか。どこをどうみても、今でも使われてそうな学校だ。……お前、この世界でも、爆発させようとしてるんじゃねぇのか」
『……なぜ?』
「そして、山城第二小学校の生存者を0にするのね」
彼女はニタリと笑った。
高橋先生に直接会わずに殺せる方法。そんなの爆発しかない。あの時山城第二小学校に通っていた生徒、教師全員を殺す。そうして漸く、この子の悲願は達成されるのよ。
「ねぇ、賭けをしましょう」
『賭け…?』
「今から、貴方が描こうとしていたシナリオをすべて暴くわ。」
『出来るわけがない、お前ごときに私の何が暴けるというの!それに、私がお前の推理ごっこを聞いて何になると言うの』
「少しでも間違いがあったら、私たち全員の命を好きにしていいわ。ただし、全部合っていたときは…元の世界に戻しなさい」
『……自信があるのね』
「当然でしょ。なかったらこんなことしないわよ、わからない?」
『わかった。そうしましょう。』
彼女は自信に満ち溢れた顔をしている。私なんかが解けるはずがないとたかをくくっているのがよくわかる。あなたはプライドが高い、必ずのってくれるとおもっていた。
そうね、これはあなたの負けよ。
「まずは、△○工場爆発事件の真相ね」
『……』
「貴方はご両親に自分の頭脳を認めてもらいたかったがために、証明する方法を考えていた。それが、△○工場を爆発させ、小学校にいるすべての人たちを殺す事。…自分を含めてね」
『自分が死んだら意味がないとは思わないの?』
「自分が死ぬことで、すべてが完成するんだから意味がないことはないわ。」
『……そうね』
ゆかにとって無意味なことは1つもなかった。私や高橋先生がこのタイミングで殺されるのも勿論無意味なんかじゃない。今年であの事件から10年が経つ。それが意味することは1つだけだ。
「高橋さんに工場のことを聞いたりしていたのは、わざとね?」
「わざと、ってどういう意味ッスか?」
「自分が死んでしまえば、自分がやったと証明してくれる人がいなくなってしまう。だから、疑ってくれる人が必要だったってこと。…それが、高橋さん」
「じゃあ、私は…っ…」
「三条ゆかが亡くなってからも、三条ゆかが直接手を出さずとも高橋さんは三条ゆかの思い通りに動いていた…ってことになる」
「平たく言えば、駒だな」
「そう、そして…。貴方は、何らかの方法で工場で働いている人に指示を送った。もしくは、ハッキング等で作業内容を変更した。」
今回のゲームは「犯行動機を暴き、脱出すること」だからどうやってあの日爆発事故を起こしたのかは重要じゃない。猫箱が適用されて、説明義務は発生しない。
だからここではその説明を省いた。ゆかもわかっているようでそのことに関しては口を出さなかった。
「お前は全員が出席した日を選んだ。あの日は生徒全員登校日だったからな。そしてそれは思い通りに事が運び、大爆発が起きた。でも、えりなが早退する日だってお前は知らず、えりなだけが生き残ることになってしまった。」
「それが唯一の誤算だったんだよね?」
『ええ』
「そして、私が生き残ったことで三条ゆかにとっての“失敗”となった。」
「それが許せなかった、えりなさえいなければ頭脳が認められたかもしれなかったもんなぁ?」
「それで、貴方は考えた
──────もう一度、ってね」
ゆかにとっての成功は「全員の死」だった。だから私が生き残ったことで、失敗に終わってしまい成仏出来ずに私を殺す方法を探していた。唯一の生き残りである私が10年と言う節目に死ねばもう一度テレビに取り上げられるだろう。そして、あの事件の真実を知る人を0人にして本当の猫箱するつもりだった。
高橋先生が真実をお母さんたちに伝えてくれていたのなら、もう駒としての役割も終わる。全員を殺して、お母さんたちさえ知っていればいいと思っていたのだろう。
ゆかの目的は、お母さんたちに認められることだった。
自分がやったのだと、知ってもらえるだけでよかったんだ。他の人は知らなくていい、生きていなくていい。そういうことだ。
『いや、お前が生きていてくれたおかげできっと私の夢はもっと大きな姿となって達成される!今年は10年だもの。ねぇ、えりな?なんだか暑いね?』
「………!!そういうことなの?!」
もう一度同じことを起こそうとしているのはわかっていた。わかってはいたけど、それは考えていなかった。
私がいた場所は夏だった。みんなは冬だと言っていた。その時間差は2次元と3次元の差だとばっかり思っていた。違う。違う。違う!!
わざとだったんだ、
私が学校にいた日は、8月12日だった。つまり、事件が起こったその日でもある。ここで何時間、もしかしたら何日もも過ごしているけど、時間という概念がないと言っていた。つまりここは、10年後の事件当日だ。
私がこの異世界で死ぬことがあれば、死体は元の世界に戻ることはない。10年後の8月12日に唯一の生き残りが、行方不明となる。そうなれば、またニュースに取り上げられるだろう。
「10年前から狙ってたってわけ?」
「えりな、落ち着け。俺たちの答えが変わるようなことでもねぇんだぞ」
「わかってるよ、マコちゃん。思ってたよりゆかがストーカー気質で引いてるだけ」
「そうかよ」
そうだよ、動揺している場合じゃない。どれだけ用意周到に準備して来たからって、私たちの答えは変わらない。もう一度空気を胸いっぱいに吸って、吐く。
「もう一度起こすのなら、再構築する必要があった。再構築するには異世界がいるけれど、異世界を構築するには貴方の力だけでは駄目だった、だから探したのよ。私を死ぬほど恨んでいる、誰かを。代わりに異世界を構築してくれる誰かを。そして、見つけた。
────生き残った私とは違う世界にいる、夢咲えりなを恨んでいる2人を。」
「それこそが、真山かすみと山中みかなだ。」
事件の真相
(違う、世界…?)