Type A

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「…あれ」

「どうしたの〜〜?」

「…生きているときの日記じゃないみたい」

「異世界を作った後の日記って事〜〜〜?」

「うん…そんな感じ」


かすみの方のノートをあけると、日付がどこにも書いていなかった。時間という概念を失ったかのようだ。内容もぱっとみた感じでは、生前の内容は書かれていない。

まぁ、1ページだけ生前のものがあったけれど。かすみははっきりと「死んでいる」と言っているし、間違いなく亡くなっているんだろう。





『涼太はきっと私が自分を好きだなんて思ってないと思う。仲のいい女の子って私だけなんだって言ってたし。つまり、親友止まりってワケ。でもね諦められないんだ。怖いから想いは伝えないケドさ。中学の頃からかすみっち、って呼んでくれる涼太が好き。親友って立場も涼太からすりゃあレアだしいいかなーって。それに、涼太の隣にはいつもあの女がいるから。彼の声も視線も何もかも、私にだけ向けばいいのに、って思うのはいいでしょ?』


生前に書いたらしい日記はこれだけだった。かすみは親友という立場に満足していたわけじゃないけど、親友をやめようとは思っていなかった。ましてや元カノを殺そうなんて、本気で思っていなかったんだろう。少しは思っていたのかもしれないけど、これを見る限りでは誰かを殺すなんてこと、出来そうには見えない。

追体験でみたかすみは(正確には顔は見えてない)狂っていた。願望を叫び、愛を憎み、すべてに絶望をしているかのような振る舞いだった。えりなを殺す時に、何のためらいもなかった。

どうして?

この時間という概念を失ったあとに、教えてくれるのは気づいてしまったからなの?




(ノートは少しシワがあり、動揺しているかのような字をしている)


「命と引き換えにするなら山中みかなの犠牲は記憶だけになるし、愛しの黄瀬涼太と永遠に一緒になれる世界を作れる」

そうゆかに言われて、迷わず頷いて異世界を作った。異世界を作るのに命を捨てなきゃいけないのは知っていたけど、怖くはなかった。

私は死んだはずなのに、死んだのかどうかもわからない。けれど、涼太がいるから何も怖くないし、自分が死んだことなんて気にしない。

だってここは異世界。
時間は進まないし、生きている人もそうでない人も、人も物も何もかもも一緒になれる場所、同時に存在できる場所。

ここにいるすべてのものが、そういうものだと信じているからこそ、起こる素敵な、キセキ。


(次のページに進む)
(字はさらに歪んでいく)



えりなが邪魔だ。
涼太に気に入れられて、えりなっちだなんて、うっとおしいにも程があるわ。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。涼太とえりなを引き離さなきゃ。

ゆかにもやらなきゃいけないことがある。ゆかはえりなを自分の理想通りに殺したい。それには他の人は邪魔。私にとって、えりなは邪魔。

元から2つの異世界を作ればいい。そう思って元から2つの異世界を用意した。舞台はこの小学校じゃなきゃいけない。私は山城第二なんて知らないから、誰かの記憶を借りなきゃいけない。えりなが変なことをしないように見張りもつけなきゃ。

別の私にやらせよう。もう死んでるみたいだしちょうどいい。異世界を作るのに私の命を使った、もう捧げる命がない。私の記憶と、えりなを殺すためのストーリーを書き上げる。命を捧げた方に比べて脆いだろうけど、問題ないはず。

記憶か。
別にいいよ、もう死んでるし、それにこれから涼太とずっと一緒だもん。だから、また覚えてもらえばいいだけの話じゃない。


これもう1つの異世界の完成だ。



(次のページに進む)
(所々濡れていて、血のようなシミもついていた)



何もわからない。

どうして私はこんなことをしているの?

みかなまで殺してしまった。なんで?友達を殺してまでやりたかったことがこれなの?

涼太を苦しめてる。

私は私は…涼太が幸せならそれでいいって思っていたはずなのに。なんてことをしてしまったの?みかなはおかしくなってしまった私を心配してそばにいてくれたと思う。

そんな友達を殺してしまった

いつから?いつから私はこんな風になってしまったの?

確かに憎い女がいた、誰なのかは思い出せないけれど確かにいた。でも、そんな殺したいとか思ったことなかった。ゆかは私に何をしたの?

きっと、何もしてないんだよね、

私が弱かったせいだ。こんなことして涼太は絶対に私を許してくれない、好きになってくれることもない。後悔したって遅いのはわかっているの。

こんなことをしてから後悔するなんてどうしちゃったんだろう。失うものなんてない、今の私はまさにそんな感じだ。

でも、もし、まだ望んでいいのなら

無事にここを脱出してほしい。

それはそんなに難しいことじゃないから。





「これで終わりみたい…」

「かすみっちは。異世界を作るために死んだ…なんて…。」

「異世界の話は興味深いね」

「そうね、『時間は進まない』ってことは元の世界では1秒も進んでないって事ね。どうりで喉は乾かないし、お腹も空かないはずだわ」

「俺お腹空いた〜〜〜〜。」

「アンタは特別よ!黙ってなさい!」

「は、うざ」

「アツシ!」

「時間が進んでへんのは嬉しい誤算やで。そとの世界でワシらがおらんなんてことになったら大騒ぎもええとこや。」

「きっと新聞の一面を飾るわよ。『高校バスケ部の全国区プレイヤーたちが消えた』ってね」

「黄瀬ちんのファンが儀式とか始めそう〜〜〜」

「ちょ、それは怖いッス…」

「何の儀式やねん…」

「…『そういうものだと信じるからこそ、起こる素敵なキセキ』…」

「えりなもそこが気になるのか?」

「赤司くん…うん、まぁね…どういう意味だろう…?信じていなければ、脱出出来る…とか…?」

「ンなこと出来ねぇだろ。俺らはあのバケモノたちに襲われて、戦った。匂いも感触も知ってる、今更信じねぇなんて選択肢はねぇだろ」

「そうだよね……」


信じているからこそ、起きているの?
よくわからないな…。それにここを脱出するのは難しくないってどういう意味だろう。

信じているからこそ、起きている…。信じていたから、起きてしまったこと?

まだ何かヒントになるようなことはないかと思ってノートをペラペラとめくる。


「あ…続きあった…」

「なんて書いてあるンスか?」

「……涼太くんにだって」

「え…」





『なんで、大好きな人を傷つけているのだろう。馬鹿だ、本当に私は馬鹿だ。自分の事しか考えてなかった。こんな私を涼太は思い出そうとしてくれてる、ごめんなさい、本当にごめんなさい。みかなまで……本当に、本当にごめんなさい』





「…っ…」

「黄瀬……」

「……これって…」

「どうかした?」

「最大のヒントかも」









『私は、三条ゆかに利用されていただけ。彼女は、何もしていない』









真山かすみの日記
(これで、決まりね)
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