Type A
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「えりな…!」
「た、かおくん…」
かすみが消えてしまって、気を抜いた瞬間痛みやなんやらで前に倒れそうになったのを支えてくれたのは、ずっとずっと会いたかった、声を聞きたかった、高尾くんだった。
マコちゃんや、虹村さんがいたから大丈夫だった、本当に大丈夫だったのに、高尾くんに触れられた瞬間込み上げる何かがあって自分からも抱きついた。
「たか、おくん!!」
「えりなちゃん、もう大丈夫だ。守ってやれなくて悪ぃ」
「私こそ、何も考えずにあの時……」
みんなの前で大男に捕まえられるようなことをしてしまった。みんなの目には私が撲殺されたように見えたんだろう。
どれだけ怖い思いをさせてしまっただろうと思うと胸が苦しくなった。それが私じゃなくて、他の誰かだったら私はとてもじゃないけど前を向いてここまで生きていきた自信がない。
「この傷どうした?」
「ちょっと、無理しちゃった」
「ちょっとじゃねぇだろ!!」
「いった、殴らないでくださいよ…虹村さん…」
座って抱きしめてもらっている私の頭を容赦なく殴る虹村さん。いやもう、貴方に何回殴られるんですか私は。4回です覚えてますから。
「まったく、あんまり無理してくれるな。俺の心臓もたないだろー?」
「ごめんね」
やっと会えた。それが何よりも嬉しくて勝手に頬が緩む。もう一度会いたくてここまで頑張ってきたんだから。
もう一度本当に会えたかどうか確認するために高尾くんに抱きつく。そのあたたかさはまったく変わらなかった。
「……かすみっち…」
そう、切なそうな声が聞こえた。
声のする方を見れば、制服を着た(多分海常の)女の子が涼太くんの前にいた。あれは…かすみだ。えりなを殺した、かすみ。
『……まずは夢咲さん、ごめんなさい』
「……謝ってすむ問題?」
そう言えば顔を歪めてしまった。私を殺しておいて、ごめんだなんて…謝って済む問題じゃない。それに謝る相手を間違えている。私は追体験をしただけで、本当に殺されたのは私じゃない。
「…あなたも覚えていないの?」
「自分がやったのかさえ」
「…………あっそ」
呆れて物が言えなかった。えりなを殺したのは間違いなくこの子だ。でも、えりなは殺されたと同時にえりなに関するものをすべて消されている。涼太くんや高尾くんたちの記憶の中にはえりなはいないし、殺した犯人であるかすみも覚えてはない。
虹村さんと祥吾くんは覚えてくれていたようだけど、それもよくわからない。なんでこの2人だけ覚えているんだろう。
「えりなっち、悪いけどここは俺に譲って貰えないッスかね。」
…私の知らない目をしている。
Bの異世界に私が行く前までは怯えていたり、女の子に対していい印象がなかったようだけど…この子は別なんだ。涼太くんにとって大切な女の子なんだ。恋とかじゃなさそうだけど、モデルなんて肩書きはいらないといって、バスケに打ち込む情熱を受け止めてくれる友達がいたんだ。決意している目をしていた。何があったのかはわからない。でも、きっと涼太くんも覚悟を決めたんだろう。今の涼太くんなら。
……任せても、平気そう。
「うん、任せるね」
「ありがとう」
ふわりと柔らかく笑う、涼太くん。こんな顔も出来るんだね。本当に何があったんだか。
ちらっと高尾くんを見ると「さぁ?」と言いたげに肩を上にあげる。
「かすみっちの想いに気付いてあげられなくて、ごめんね。…一緒に帰ろう?」
そう言ってかすみに手を差し出す。かすみは一瞬目を大きく開いた目に涙を溜め、手を取ろうとした。
「…かすみっち…?」
けど、かすみは手を取らず、下に手をおろした。
『っ…一緒には…帰れない…』
「?!なんで!帰ろうって約束したッスよね?!」
『…涼太の前では…綺麗で、いたいの…』
「え…」
『狡い女よね…本当』
声が、震えている。
顔を見せないようにか、自分を抱きしめ背を丸めた。
「…狡いし、最低ね」
「えりなっち…」
『……ごめんなさい』
「私の事じゃない。涼太くんは、今あなたに話をしているし、親友だから本当の事を知りたいんじゃないの?」
『っ…』
「それがどれだけ涼太くんを傷つけたとしても、教えることがあなたの義務だと思う。でもこれは私からのお願い。涼太くんにちゃんとすべてを教えてあげてほしい。そして、最期にちゃんと…涼太くんに気持ち伝えてあげて?」
『どうして…そんなことを?』
「はっきり言うわ、私はあなたを許さない。でもね、そのことと今は関係ないの。私はあなたを許さないけど、私はあなたと涼太くんの関係を否定する気は無いよ。」
『っ……あり、がとう…』
私はこの子に特に何もされていない。ここに連れてこられはしたけれど、そのおかげでみんなと、高尾くんに出会えた。怖くて怖くて、泣いてしまったけれどそれでもこの出会いには感謝しているんだよ。
でもね、二次元にいたえりなも私だから。私は私を殺した人を許せない。痛くて辛くて苦しくて誰も助けてはくれなかった。あんな辛い思いをしたのに許せるはずもない。けど、涼太くんとの仲は否定しない。それでも大切な友達だというのなら、大切にしてほしいと思う。
『聞いてくれる?』
「うん」
泣いて震えているかすみの手を取ってかすみの言葉に耳を傾ける涼太くん。
その顔は酷く優しい顔をしている。
『私ね…本当はもう、死んでるんだ…』
やっぱりな、と思った。
そばにいた三条ゆかが原因だろう。彼女は私と同じ世界にいた人物。それが他の世界の人間と一緒にいてその人間と異世界でこんなことを起こし、友達をも殺した。それで自分だけは無事だなんて都合が良すぎる。三条ゆかがかすみの前に現れて、一緒になって私を殺したのには絶対理由があるはずだ。三条ゆかはかすみたちがどうしても必要だった。例えば異世界を作るのに三条ゆか1人では無理だった、とかね。
Bの異世界を作るのにも条件とあらすじが必要だった。なら今いるこの異世界を作るのにもそれ相応の代償があったはずだ。それが命でも、可笑しくはない。だから、吹っ切れていたからみかなも殺せた。
『それに、私は…人を殺してしまった。記憶が曖昧だけれど、きっと何人も手にかけた。なんで覚えてないのかも、わからないの』
「……なんとなく、それはわかってたッスよ。」
『あはは、そうだよね。あの時の私は正気じゃなかった。殺さなきゃ、いけない、って思い込んでたような気がする』
かすみは操られていた?
まぁその線はあるだろうね。かすみも、みかなもずっとえりなを羨ましいと睨みつけてはいたけれどいじめに加担することもなければ、何か行動を起こそうとはしていなかった。おそらく三条ゆかに出会ってから変わってしまったのだろう。
「殺さなきゃいけない」そう思うようになってしまった。
『私は…涼太と一緒に帰れない。でも、言わせてほしいの、ずっと、ずっと大好きだった。本当は一緒に帰りたいし、一緒にいて支えてあげたかった。やっと涼太が本気になれる物が見つかったのに…。もっともっと涼太が大好きなバスケをするところ見ていたかったのに…。』
「…嫌…なんで…かすみっち…」
『…今の涼太がバスケに抱いてる気持ちは、きっと大切なもの。やっと手にした気持ちなんだから、大切にして絶対忘れないでいてね。』
「っ…う、ん…」
『───さよなら、涼太。』
「…さよ、なら…」
『────涼太なら、きっとなんでも出来るよ』
かすみは最期に顔をあげて、涙を流しながらも笑って消えていった。
涼太くんも、泣いてはいたが笑って見送った。
そして、私の手元には3冊のノートが残った。
最期の笑顔
(キミの分まで俺は笑うよ)
((涼太の笑顔ってみんなを元気にさせるね!))