Type A

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「はっ…はぁ…っ」

「グぁッ…あ…!」


勘弁して欲しい。

今はそれしか頭になかった。なぜなら後からゾンビのようなバケモノが走って追いかけてきてくれているからだ。こんなにも速く走れるゾンビがいるとは思わなかった。というかこの学校にゾンビがいるとは思わなかった。

私は決して遅い方ではないが必死に走らなければ追いつかれるかもしれないというくらい速い。


『逃ゲてル、ダけジャ…ダァめ!』


何であんな声になっているの?理由はさっぱりわからないが、次にかすみの姿を見た時には焼けて死んだ死体のような姿になっていた。片目は飛び出し、ただれている皮膚。ボロボロの洋服。

おそらく彼女の最期の姿なのだろう…匂いもひどく吐き気が催してくる。

しかし彼女が言ったことも一理ある。逃げてるだけだとゾンビがどんどん増えていく一方だ。こっちの分が悪くなるだけである。

…ならば戦う?でもこの学校に武器になるようなものはあるのだろうか。


「……武器、?」


鋭利な刃物…拳銃それはないな、包丁?包丁なら給食室か家庭科室にあるはずだ。ここからなら家庭科室のほうが近いだろう。家庭科室は確か1階の正面玄関右手側にあったはずだ。

それに給食室はまたポルターガイスト現象が起きてもおかしくない。今私はひとりであるため給食室に行ってポルターガイスト現象に巻き込まれれば私はどうにもできない。しかし家庭科室にバケモノがいないとは限らない。図工室のようにバケモノがいたら…いや、今すでにバケモノに追われていたんだった。化け物が一体増えたところで状況は何も変わらない。家庭科室に行こう。

問題は鍵だが…またピッキングだね…。やれやれ、2回もピッキングなんて本当に物騒。


「っ…も、少し…!」


1階に着いた。
少しでも引き離さなければ…!


「着いたっ…」


どうやら記憶は正しかったようですんなりと家庭科室の前まで行けて、後はピンで開けるだけだ。


ガチャガチャ…


手が震えているせいか中々上手くいかない。振り向けばすぐそこまで奴らは来ていた。


『キゃハハは…!』


嫌な声が響いてくる、嫌だ、開いて、開いて…!!

カチャン…


「!開いた…!」


奴らが私に触れる寸前に開き、ドアを開けて中に入るとすぐにドアを閉めて鍵をかける。


ドンドンドンとたくさんの手が扉を叩く音が聞こえる。暫くは入って来れないはずだ、後ろから入ったから前から出れば逃げ切れる。かすみは急に現れたりはしないと言っていたし、扉をすり抜けたりもしないはず。

そう思って調理台にある引き出しを片っ端から開けてお目当ての物を探す…


「あった…!」


割と細長い包丁で切れ味も中々良さそうだ。これがあれば近くに来たバケモノを切れば時間を稼げる。出来るなら使わずに逃げていたいけど。


「ひっ…?!」


家庭科室から出ようと足を前に動かそうとした時、冷たい何かが足を掴まれた。

家庭科室にバケモノが最初から…?!

どうして、家庭科室の扉は閉まっていた。このバケモノたちは急に現れたりするの?いや、生きた人体模型も大男もそんなことはなかった。まわりを見渡すと、窓の施錠が空いているのを見つけた。この雨の中外から…!!


「ぅ…ぁ…ア…!」

「〜〜っ…!」


調理台の下からのそりと現れたソレは最早人間の形をしておらず、人間っぽいナニカとなっていた。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ…もう嫌だ…まだ時間なんて経ってないのに…!


「ぅ、ああああ!!」


悲鳴のような声で私の足を掴んでいる手を蹴り落として家庭科室の前の扉から飛び出す。


『見ツケたァ…』


そこには狂気に満ちた顔で笑ってる女の子がいた。


「ひっ…いやぁあああ!!」


まだ触られたわけじゃないと思って突き飛ばして、走る。あてもなく走る。奴らから逃げるために。捕まったら死んでしまう。

…え…待って…奴らって誰?


「あの、女の子…誰…」


後ろから笑いながら走って追いかけて来るあの女の子は誰だろう。あんな女の子みたこともない。なんで私は逃げているんだろう。何もわからなかったけど、逃げないと行けない気がして足は止めない。

近くにあった階段を上って2階の廊下を走っていく。


「何で…私……」


────逃げているの?

私は一体何をしていたんだっけ?目を覚ましたら体育館にいて、そこには黒子のバスケのキャラが揃っていた。それで高尾くんたちと一緒に探索に行って……

反対側にあった階段を上って行く。


「今、むっくんたちと職員室に鍵を取りに行ってたんじゃ…」


むっくんたちは何処?

生きた人体模型を赤司くんたち先発隊が倒しに行くからその間に鍵を回収しに行くって話だったよね?むっくんたちと一緒に体育館を出て……黄瀬くんは私を嫌ってる素振りを見せていたから上手くやっていけるか不安だった。

──それで?どうして、こんなことになったんだっけ?

3階に着いてまた反対側に走っていく。


「………な、に……、」


あれ、私…自分の学校にいたんじゃ……?

蝉が鳴いていて、美味しそうな入道雲が高く高く昇る、いつもと変わらない朝に私は自分の学校に登校した。それで自分の教室の鍵を受け取りに職員室にへ…。


「ここは……どこ……?」


真っ暗な学校?

さっきまで朝だった。それに雨が降ってる……なんで…?ここはどこなの?わからない、私は何をしているの?どうして手に包丁なんて…それにこの制服はなに?


「…夢…?」


なぜか私は走っていたから足が止まる。後ろには変なバケモノと焼けただれた女の子?

これはなに?何が起こっているのかさっぱりわからないけど、身体が勝手に反応する。




────殺せ!




「グア…ァ…!!」


襲ってきたバケモノの首を切り落とす。それを次々と繰り返した。なんで殺してるの?誰なの?ここはどこ?

何もわからなかったけど、身体がこいつらは危険だと言っている。勝手に反応している。


「……!!」


そうだ…この子は真山かすみ……


「わ、たしを…殺すの?…ま、やま…さん…」


いつも、涼太くんと一緒にいる子。きっと涼太くんに恋愛感情を抱いていたんだろう。それにはずっと前から気付いていた。それに、最近は私に対して嫉妬してそれが殺意に変わってきていることも、知っていた。

なんとか回避しようと思っていたけれど、やっぱり私は、殺されるのね。


「……ごめん、なさい」


ドサリと力が抜けて、座り込む。

どうしてこうなってしまったんだろう。どうすれば回避することが出来たんだろう。何もわからない。何がそんなに真山さんを狂わせてしまったの?


「誰の、せいなの?」


きっと真山さんは誰かに入れ知恵されたんだと思う。こんなことをするとは思えない。だって涼太くんに嫌われないように過ごしてるって感じだった。

目の前には狂気に満ちた真山さんが手を伸ばしてくる…。ああ、私はこの手に捕まれば死んでしまう。

それでも、いい気がした。

どうせこんな狂気にずっと当てられていたら死んでしまうのだから。






「────夢咲!!!」








忘却していく記憶
(ああ、懐かしい声だ)
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