Type A
□37
1ページ/1ページ
「いいわ、やろうか」
『そう来なくっちゃ』
「なっ…何を言ってるの!ダメだよ!!死ぬかもしれないんだよ?!」
突然現れた少女と1時間命をかけた鬼ごっこをすれば、Bの異世界の解除とすべての日記を渡してくれると言われ、私はその提案に乗ることにした。
こんな手っ取り早い方法があるならその方がいい。さっきから走ってばっかりだけど、少し休んだおかげでまだまだ走れる。運動はあんまりしてこなかったけれど、若くってよかったって思うよね。
私がこのゲームを受けるといえばコタちゃんと福井さん、伊月さんが声を荒げた。
「そうだぜ、何言ってんだよえりな!」
「異世界を解除してあげるって言っている以上、この子がBの異世界を作った本人である可能性が高い。何より日記をすべて手に入れられるのは大きなメリットだと思うんだけど?時間だって有限じゃないんだし、1時間で全部揃うのならその方がいいと思うんです。」
「はぁ?!Bの異世界を作ったのは真山かすみじゃないの?!」
「……こいつは幼き頃の真山かすみってとこだな。」
『そ、私は真山かすみ!』
面影はあまりないが真山かすみの幼き頃の少女。同じ世界に2人の真山かすみ。とどのつまり、2つの異世界を見張るために呼び寄せたとかそんなとこかな。同じ人物だから通信能力があるとか…どのみち私たちを見張るのに便利だから幼き頃の自分を引っ張り出してきたのだろう。
真山かすみは3次元の人じゃない。異世界を作ったとしてもこんな内部まで再現出来るはずもない。ということは目の前にいるこの子供は3次元にいた真山かすみの記憶を元に作り上げたのだろう。
「特殊なルールとかないでしょうね」
『ないよ!私をなんだと思ってるの?私はただえりなちゃんと永遠に遊びたいだけなの!この学校でいつまでもいつまでも。だから普通の鬼ごっこをしましょ!昔みたいに!』
「……わかった」
某アニメのように瞬間移動したり、人間じゃとてもじゃないが出せそうにない速さで走ったりはしないようだ。子供だからか本当に純粋に遊びたいってだけらしい。
この子は私を殺して、学校で永遠に遊びたいようだ。子供にとって休み時間は天国だったから、それが永遠に続くとなればどれだけ嬉しいんだろうね。
「えりな、お前本当にやれるんだな」
「大丈夫だよ、マコちゃん。私、思ったより強いみたい。」
「は?」
「……乗り越えなきゃ、会えないでしょ。みんなに」
「方法ならまだ他にあるかもしんねぇぞ」
「あっても、なくても、どっちでもいいの。私がこれを選ぶ。私を信じて、ね?」
「……わかった。俺たちも出来る限りフォローはする。無理はするな」
「ありがとう」
私と2人で鬼ごっこをしようと言うゲームだけれど、他のみんなが私を助けちゃいけないと言うルールはなかった。さすがに1時間走りまわるのはきついから、さっきの生きた人体模型の時のようにフォローしてもらいながら逃げるのが1番いいだろう。
大丈夫、私は1人じゃないんだから。
「真山かすみ、やろうか」
『うん!そうしよっか!じゃあお兄さん達、ばいばーーい!!』
「え…?」
「は?お前まさか…!」
『邪魔なの、ごめんね』
真山かすみはパチンと指を鳴らした。
嫌な予感がしてまわりを見渡すと、そこには誰もいなかった。職員室の中には今、私と真山かすみしかいない。
ドクン、と大きく心臓が動いたのがわかった。
「マコちゃん…?コ、タちゃん?福井さん?伊月さん…?」
みんなが消えた……。
ここに来た時からずっと助けてくれていたみんながいない。私はこのゲームだってみんながいれば大丈夫だと思ってた。なのに、今…誰もいない。
確かにフォローしちゃいけないって理由はなかった。そうか、そういうことだったんだね。元から真山かすみは私たちを別々にしたかったんだ。だからルールでは特に何も言わなかったんだ。みんなをこの異世界から別の場所へ飛ばすから。
「な、何をしたの…?」
『何って?この世界にえりなを1人きりにしたの』
「マコちゃんたちをどうしたのって聞いてるのよ…!!答えなさい!」
『うるさいなー、えりなちゃんのだーいすきな高尾くんたちがいるとこに送っただけー!死んでないし怪我もしてないから安心して!』
みんなと合流出来るってことね、ならいいわ。寧ろ好都合かもしれない。私たちがこの世界で入手した情報をマコちゃんが他の人たちよりも正確に確実に伝えてくれる。それで解決方法も見つけるのかもしれない。
『今から1分、逃げる時間をあげる。私は突然現れたりしないよ!普通に走って追いかける。だって鬼ごっこだもん!』
「…わかったわ」
『じゃあ鬼ごっこスタート!』
かすみは楽しそうに笑っている。何故こんなにも楽しそうなのだろうか。そんなにも私を恨んでいるとでも言うのだろうか。こんな小さいかすみには私は会ったことはないと思う。同じクラスとかだったのかな?それならば記憶になくてもおかしくない。
『覚えてる?』と幼少期のかすみは私に聞いていた。追体験ではかすみは二次元のえりなを知っていた。二次元のえりなは何も言っていなかったけれど…
そんなことを考えながらなるべく足音をたてないようして階段を降りて行く。
「……た、かおくん」
すごく会いたい。1時間、1時間耐えれば私はまた高尾くんに会える。
……1時間もこの空間に1人…
マコちゃんたちと出会ってからここを探索したが、マコちゃんたち以外とは出会わなかった。
つまり、完全に1人ということ。
ゾクッ
その中で私はかすみと鬼ごっこをする。もし、負けてしまったら…私は誰の目にも触れることなく、死ぬ。誰もない場所で、死んで、死体はただ、腐って行くのを待つだけ…
「────っ」
初めて、死と向き合った気がした。マコちゃんと出会う前は誰かいるかもしれないと少しは思っていた。それは探索していなかったからだ。けれど、今は違う。探索して誰もいないことがわかってる。
誰にも気づいてもらえず死ぬって、怖いね…えりな。
あなたもこんな気持ちだった?
「こわ、い…よ……」
声が震える、足も震える、手も震える。それでも死から逃げる、どこまでもどこまでも。怖いけれど、生きることを諦めたわけじゃない。
────全部夢だったらよかったのに。
死にたくない、またみんなに会いたいから。怖いからって諦めたらダメだ、頑張らないと。諦めたらそこで死んでしまう、2度と会えない。
「マコちゃん……わた、し…やっぱり、弱かった……」
マコちゃんたちがいるならなんとかなるとか思ってた。けど頼れるマコちゃん達はいない。
それだけで何もかも諦めて死にたいと思う程に恐怖を感じてしまっている。息も上手くできない…油断したら吐きそうだし、きっと涙も溢れる。
『鬼ごっこはっじっめっるっよー!!』
────恐怖は始まったばかりだったのに、ね
開始
(生き残ればいいだけ、走れば…)