Type A

□35
1ページ/1ページ







誰かがいる。

『涼太』と呼ぶ、懐かしい声がする。

違和感を感じる過去に、確かにいる、誰か。

なのに、誰かがわからない。

割れそうなくらい痛む、頭。

痛い、痛い、痛い






『涼太、涼太』

「誰なンスか…キミは…?」


気がつけば真っ暗なところにいた。どっちが上で下かもよくわからない。自分は立っているのか、座っているのか、もしかしたら倒れているのかも。本当にそういう情報さえ入ってこない真っ暗な空間。

不思議と怖い、なんて気持ちはなくて落ち着いている。どこからか聞こえてくる、俺を呼ぶ声も俺に安らぎを与えてくれた。


『涼太、私ね』


俺に語りかけてくれる声は、とってもとっても悲しそうな声をしていた。高尾くんを好きだって言っていたあの子のように後悔をしているンスかね。


『後には戻れないから犠牲にしたの』

「何を?」

『記憶。みんなから私は消えた。』


やっぱり俺はこの子のことをすっかりと忘れさせられているようだった。何も覚えていないけど、声を聞いているだけでとても落ち着くってことはきっと…かなり仲良しだったんだろうなぁ。


「俺と親友だったンスか?」

『そうだよ、あの子を除けば私が1番仲良かったんじゃないかな。』

「あの子?」

『私が××しちゃった。』

「聞こえない、何て?」

『聞こえないなら、知らない方がいいってこと。』


俺のことを親友だって言ってくれているのに、そんな俺にも言えないことがあるってことなンスかね。言いたくないなら言わなくてもいいと思う。えりなっちが俺にそうしてくれたように。

でも、この子は言いたくないんじゃなくて、なんとなく諦めている感じがした。俺が知っていても知らなくても、何も変わらない、って。


「アンタの望みは何?」

『わかるでしょ?私は涼太を殺したいの』

「なんで?」

『ずっと一緒にいたいって思ったから』


ずっと一緒にいたいと思ってくれていた。それほど好きでいてくれた人なンスね。

えりなっちは職員室で言ってくれていた。「いつか絶対に黄瀬くんのことを全部を愛してくれる女の子が現れるよ」って言葉。あの時は「そんな人いるのかな」なんて思ってたけど、すぐそばにいてくれた。きっとこの子は等身大に俺を好きでいてくれたンスね。

何が原因で歪んでしまったのかは、わからねーけど。


「っていうか俺、キミのこと思い出したいンスけど」

『どうして?』

「どうしてって?」

『えりなの為って言うならダメ。私もえりなのことが嫌いなの、邪魔なの!えりなが理由だって言うなら今すぐ諦めて!!』


この子もえりなっちを知っていて、俺がえりなっちと仲良くしているのが気に食わなかったンスね。だから、嫉妬してえりなっちをもう1つの異世界へと飛ばした?


「アンタを思い出すことが出来たらえりなっちは俺たちと合流できる。それが目的なら、えりなっちが理由ッスね。でもそれだけじゃねぇンスよ」

『?』

「俺、ずっと欲しかった。異性の親友ってやつ。それがキミなら、俺が心から欲した物だから、忘れたくない、取り戻したい。そう思うのは変ッスかね?』


ずっとずっと求めていたものだった。女の子と遊びたいってわけじゃなかったけど、同年代の友達が異性の友達と恋愛云々なしで遊んでいるのを見ると羨ましかった。俺と女の子の間に友情なんてなかったッスから。

そう自分の考えを告げると、間髪入れずに「思い出すのはやめて」と言われてしまった。


「なんで?」

『後悔するよ、絶対。こんなのが親友だなんて、って後悔する。バカなのはわかってるけど、涼太に思い出して欲しくない』


俺が仲良くしてた女の子をそんな風に思うわけがない。こんなことになったけれど俺はキミを恨んでなんかいないし、むしろ思い出して一緒に帰りたいとすら思ってる。

まぁ巻き込まれた側のみんなからしたらたまったもんじゃないし、きっと怒ってるだろうけど。


「俺が一緒に謝るッスよ。まだ誰も怪我さえしてないし、謝ったらきっとみんな許してくれるッス!」

『許してくれないよ。私は恨まれることをしてしまった。これとは別だわ。私が弱かったせいで、みんなが死ぬんだから』


みんなが死ぬ?

俺と高尾くん、えりなちゃんが狙われているのは知っていたけれど、俺たちだけじゃなくて全員殺そうとしてる?


『利用されてるだけだったのに、気づかないまま上手い話にのせられていた。この世界を作った頃には戻れなくなっていたの』

「後悔してる?」

『ううん、寧ろ開きなおってる。上手く扱えなくってみんなを巻き込んでしまったけれど、全員殺せばいいの!私は優しいから殺した後はこの異世界から解放してあげる!あ、でも涼太だけは私が作った異世界の中で永遠に生きるのよ!』

「……は?」


もう壊れてしまっているのか、ワクワクしているような声で話す。みんなが死ぬ…?こんなところで…?

させねぇ、絶対に!


『涼太、ずっと一緒にいよう!一緒に死のう!!』


ズズッと俺を飲み込んでいる影。そうか、今ここにいる世界が真っ黒なのはあの子の心なんだ。


『涼太が私を思い出せば、えりながいるもう1つの異世界は消える。』

「記憶が、条件だったンスか?」

『そう。私が関連していることすべてを、今生きている世界から存在ことを消す。それが条件だった。』


なら俺がすることは、たった1人ってことか。存在をなかったことにしていいなんてことはない。


『この異世界を作ったのも、私なの』


え……?

異世界を作った本人?


『これにもね、条件があったんだよ。』

「どんな…?」

『言えない、まだね。でも、このせいで、私は記憶を条件にもう1つの異世界を作ったんだよ。』

「それ以上だったってことッスか?」

『うん、だから記憶なんてもうどうでも良かったんだ。寧ろ消えて、よかった』

「なっ…いいわけない!いいわけないじゃないッスか!!確かに忘れたら、元から何もなかったかのように見える!でも!なかったことにしていいわけがない!!」

『じゃあどうしろっていうの?!もうどうしようもないの!!だから一緒に死んで!!』

「キミが間違ったことをしたなら、俺は怒ってあげたいし!止めてあげたい!!そんで、キミは…悔やんで、反省しなきゃいけないんじゃないッスか!!」


そうだ、俺はこういう友達が欲しかった。キセキのみんなにはなんでも言える、本気でぶつかれる。異性の友達に拘ってたわけじゃねぇッスけど、そういう友達も欲しいってずっと思ってた。


『……怒ってくれるの?』

「それが、俺が求めた、親友の在り方ッスから…」

『じゃあ私たち、親友じゃないかも。』

「え?」

『涼太さ、今は中学時代を間違ってたって思ってるでしょ?』

「うん、そうッスね。」

『私もね、間違ってるって思ってたけど、言えなかった。それだけじゃないよ、私はなにも涼太に伝えられなかった!涼太に嫌われると思ったら言えなかった。ごめんね。』


なんだ、そんなことか。

そんなの全然大したことじゃない。俺が悪かったンスよ。キミには伝えたいことがあったのに、俺は気づいていなかった。受け止めようともしてなかった。記憶はねぇけど、きっとそうしなかったから今こんなことになってる。


「じゃあ、帰ったら今度こそそういう関係になればいいッスよ何度だってやり直せるッスよ!俺は、やり直せるって信じてるッス。」

『本気で言ってるの?』

「本当。だから、もうやめよう?」

『ああ、本当に涼太はバカだなあ。もっと、もっと話せばよかった……そしたらきっと、違う未来があったのに。』







風が、通り抜ける。


色んな思い出が蘇ってくる。


嗚呼、そうだ…やっと思い出せた…




───────
────
──




「っ!!…真山、かすみ……やっと、やっと…」


はっと目が覚めて勢いよく起き上がる。かすみっちの記憶が戻ってきて安心するけど、なんだか身体が重くてだるくて、そうまるで何試合もした後のような。

頭痛かったもんな、と思って額に手を置くとびっしょりと汗が手のひらにつく。


「うえぇ?!なンスかこれぇ!俺こんなに汗を?!」

「……おま、え…」

「黄瀬さん…!」

「え?へ?な、なに?」


頭が痛かっただけなのにこんなに汗をかくとはおもってなかったからびっくりして、ジャージでとりあえず顔を吹く。あーあ、身体までびしょびしょっすよ。気持ち悪くてこの際外に降ってる雨でもいいから汗を流したい。

そんなことを考えていたら、隣にいたらしい高尾くんと桜井くんが目を丸くさせていた。


「どうもないか?」

「どう、って?」

「お前今まで息してなかったし、心臓も止まってたんだぞ?!」

「ええ?!まじッスか?!」


息をしてなかった、心臓も止まってた?よほど頭が痛かったンスかね?

それとも、かすみっちは本当に俺を殺そうとしてた……




「……一緒に帰ろうって、約束したんで、もう大丈夫。」




追憶
(さぁ、帰ろう?かすみっち)
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ